江湖の遊侠・陸小鳳の元に持ち込まれた依頼。それは、滅亡した金鵬王朝の財宝を取り戻すことだった。親友の花満楼や剣客・西門吹雪らの協力を取りつけた陸小鳳は、財宝を奪ったという3人の家臣を追うが、思いがけず複雑な事態に巻き込まれていく。
武侠御三家で一番好きな古龍の代表シリーズその一、出版社を移動して邦訳再開。小学館文庫版を所持&しばしば読み返しているのでストーリィは大体覚えているのですが、表現が微妙に変わっていたり削られた部分が復活していたりするのでちょっとした新鮮味も味わえました。
なんだかんだで正統派な金庸作品と比べると、古龍作品はハードボイルドやらミステリやら剣豪小説やらその他諸々の要素をごった煮にしたような感じ。良く言えば破天荒で自由奔放、悪く言えば行き当たりばったりでしっちゃかめっちゃかな話の展開がこの作家の持ち味なのですが、この作品も例に漏れず。1作目ということもあってか登場人物紹介編というノリも強いですが、それでも面白いのだからたいしたものだと思います。
そんな話を引っ張っていく登場人物も個性的な面々が勢ぞろい。主人公の陸小鳳は、まさに「遊侠」といった感じの茶目っ気も備えた伊達男。武術の腕も相当という設定ではありますが、作中で目立っているのはやはり頭脳派というか探偵役としての活躍かと。彼の行くところ人死が出まくりますが……まぁその辺はお約束、ということで。彼の相棒とも言える花満楼は、物腰も柔らかな盲目の貴公子。物語の良心的存在ですが、時々(結構頻繁かも)何気にキツイ一言を発したり只ならぬ腕前を見せてくれたり。陸小鳳と彼のコンビはなんとも良い感じで(変な意味じゃなく)、読んでいて楽しいです。そしてもう一人、一際強烈な存在感を放つのが孤高の剣客・西門吹雪。初登場時の一文がむやみやたらと格好良い。物語中でも、「一度抜けば必ず殺す」の信条に従ってその腕を振るってくれます。実質役に立ってないとかは言っちゃ駄目。この作品で活劇は彼のためにあるのですから(断言)
他の登場人物も、話に深く関わってくる人から(今回は)端役で終わった人まで多士済々。冷静に考えればわりと酷い展開のはずなのに、最後までどことなくユーモラスな雰囲気が失われないのは、これらの登場人物の力が大きいんだろうなーとしみじみ思いました。