『身代わり伯爵の失恋』[清家未森/角川ビーンズ文庫]

 庶民派少女ミレーユと、おかしな連中たちの繰り広げる王道ラブコメファンタジー、第9巻。……そういえば、短編集の感想書くの忘れてるなーと気がついた。

 シアラン大公家のお家騒動関係では、とある「事実」が明らかに。これは正直意表を突かれたというか、全く想像していなかったので素直に吃驚した。しかし、そうなるとまた新たな疑問がでてくるのですが……まぁ、たぶんその辺も追々あかされるんだろうと適当に構えておくとします。
 登場人物関係では、ようやく自分の想いを自覚したミレーユと開き直ったリヒャルトのやりとりにニヤニヤごろごろした。しかし、ミレーユが彼女の存在を快く思っていないリヒャルトの従者から「リヒャルトには別の姫君との婚約話がある」と聞かされているものだから、すんなり両想いとはならず。無自覚バカップルの追いかけっこがここにきて攻守逆転した感がありますが、この二人のすれ違いがどういう過程で解消されていくのか、ちょっと楽しみ。あとは、きぐるみ第二王子は相変わらず良い人だなぁとかウォルター伯爵は思ってたより病んでる人だなぁとか、そんな感想。

 そしてラストはフレッドが窮地に立つという展開。……なのに、彼の場合は何をやっても作戦何じゃないか?と思ってしまうのは良いことなのか悪いことなのか(苦笑) まぁその真相も含めて、役者が揃いつつあるシアラン王宮でこの先どんな騒動が起きるのか。次巻が楽しみです。

作品名 : 身代わり伯爵の失恋
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著者名 : 清家未森
出版社 : 角川ビーンズ文庫(角川書店)
ISBN  : 978-4-04-452409-8
発行日 : 2009/7/1

『芙蓉千里』[須賀しのぶ/角川書店]

 須賀しのぶさんの新作は、「大陸一の女郎になる!」という夢(!?)を持ち、自ら人買いに「買われた」辻芸人の少女・フミが、哈爾濱の女郎屋「酔芙蓉」で思わぬ運命や恋に翻弄されながらも経験を重ね成長していく、波乱万丈記。携帯小説サイトSari-Sariで連載されていた作品を加筆修正しての書籍化。私は連載時は結局1回しか通読してないので(やっぱり読みづらいし、通信代もね……)だいぶ記憶があやふやなのですが、それでもあれここってこんなだったっけ?と思うところがいくつかあったので、結構手が入ってるっぽい。

 当時の女性としてはいろいろと型破りなフミが、目標に向かって全力投球(ただし微妙にずれた方向に)で逞しく生きていく姿がなかなかに小気味よかった。好奇心旺盛で、人の死を前にしても「何故」と考えたり冷静に現実を見ていたりするところは、この先の彼女の運命に何か影響があるんだろうか……と彼女の今後にあれこれ思いを巡らせてみたり。それから、彼女と同時に「酔芙蓉」に買われたタエとの友情もまた良し。いや、タエは正直「流血女神伝」のサジェやサラのようになるんじゃないかと冷や冷やしていたのですが……互いに影響し支え合って強く成長していく姿が、実に素敵。この二人だけでなく、「酔芙蓉」のおかみさんや女郎たちそれぞれの生き様も印象深いものがありました。なかでも、フミが見知らぬ母の面影を重ねて憧れていた蘭ねえさんと、口は悪いけどなんだかんだで面倒見のいい千代ねえさんが……彼女たちが「酔芙蓉」から去ったシーンは思わず眼が潤みました。全体的に見て、フミの存在で若干緩和はされているものの、女郎屋の暗い面もちゃんと描かれているのはさすが、という感じです。
 あと、後半の奇妙な三角関係というか、2人の男性の間で揺れるフミにもニヤニヤ。個人的には黒谷派ー。彼との間に生じる、恋ではなくても信頼や友愛などが混ざり合った微妙なつながりがとてもツボでした。つーか、このまま恋愛まで発展しなくても、いつか彼が、「芙蓉」ではなく「フミ」と呼んでくれればそれだけで満足しそうな勢い。一方、山村はどうみても怪しいよなぁと思いつつ、それでも彼が幼少時からフミのなかで大きな存在だったことは否定できないし……終盤のあの選択は、連載読んでるときはフミがどちらを選択するのか本気でドキドキした。そして、彼女の選択に納得しつつも、切り捨てたものの大きさにへたり込むフミと、そのあとに手を差し出してきた彼とのやりとりにまたじんわりくる……。
 ついでに、分類:歴女なので、時折挟まれる世界情勢の描写にもニヤリとした。それにしても、この先ますます不穏になっていく世の中が、果たしてフミや「酔芙蓉」の運命にどのような影響を与えるのか、気になるところ。

 秋には第二部連載開始が予定されているということで。次はどんな展開が待っているのか今から楽しみー。しかしまずは現在連載中の外伝がどういう結末を迎えるのか、そして書籍化されるのかが気になるところです。

作品名 : 芙蓉千里
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著者名 : 須賀しのぶ
出版社 : 角川書店
ISBN  : 978-4-04-873965-8
発行日 : 2009/7/1

0907購入メモ(その1)。

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『信玄忍法帖 忍法帖シリーズ(一)』[山田風太郎/河出文庫]

 月に一回・山風感想。直前に『妖説太閤記』も再読したのでどうしようかなーと思ったけど、やっぱり先に読んだしーということで忍法帖シリーズのこれを。内容はざっくりまとめると、武田信玄の死を巡り武田と徳川の間で繰り広げられる忍法勝負……というよりも、あの手この手で攻める徳川方に対し、必死の防衛を試みる武田方の情報攻防戦、という感じ。忍法帖の中でも史実や現存する記録との接点が特に多いのが特徴ですね。ちなみに作者自己評価は「A」。

 信玄の遺言――3年間その死を隠すという目的のために用意された6人の影武者。さらに彼らを守るのは真田昌幸と彼に仕える忍者・猿飛と霧隠、さらには川中島の大失策の責を取り隠遁していた山本道鬼斎(勘助)という面々。この強固な壁を、家康より厳命を下された徳川方の忍者9人がどのように崩していくのか。その過程が見どころです。各エピソードを彩るゲストキャラもまた豪華で、それぞれ思わぬ活躍や役割でニヤリとさせてくれます(つーか、ひょっとするとメインより目立ってないか?と思うのはご愛敬)
 そんな感じで、実は忍者同士の忍法勝負という意味合いはやや薄めだったりするのですが、その分出てくる忍法そのものはどれも個性的というかなんというか……まぁとにかくインパクトは強いです。「春水雛」とかこれで殺されるのはいやだあああっ!と叫びたくなるし。あと、こんなのどうやって破るんだよ!とツッコミ入れた「時よどみ」が、剣聖にさっくり打ち破られたのには吹いた。次元が違いすぎる。

 両陣営の攻防は一進一退ながら、勝利条件に縛りの多い武田方がしだいに追い込まれ、さらには内部の不和から……という流れには、その後の歴史をわかっていても嘆息。一度去った流れを何とか呼び戻そうと必死に抗った人々を呑みこんでいく、歴史の流れの無情なことよ。終幕で、長篠へと馬を進める武田軍の姿は、その後の史実も相まってなんとも侘しい……。

作品名 : 信玄忍法帖 忍法帖シリーズ(一)
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : 河出文庫(河出書房新社)
ISBN  : 978-4-3094-0737-1
発行日 : 2005/2/5