『クシエルの使徒 (3)罪人たちの迷宮』[ジャクリーン・ケアリー/ハヤカワ文庫FT]

 中世ヨーロッパ風異世界を舞台に諜報員として仕込まれた女性が陰謀の狭間で活躍するファンタジー小説、「クシエルの使徒」第3巻かつ第2部完結編。

 前巻のラストが「うわー……」としか言いようがない状況だったので一体どうなるんだと思ったけれど、絶体絶命の危機を乗り越えたあとはなんだか妙に安心した気分で読んでた気がする。……いや単に、流石に3巻目だしここから逆転だ!と思っていただけともいいますが(地味にかわいくない読み方だな)
 ともあれ、王手の一歩手前まで進んでいるメリザンドの陰謀をなんとか阻止するべく各地を渡り歩いて反撃の算段をつけるフェードル。このあたりの展開は、なんというか、いまさらだけどフェードルってタフだよね、とか、人脈っていうのは偉大だ……とかそんなことをつらつらと思ったり思わなかったり。で、ついに始まった逆転劇。その流れはけして意外なものではありませんが、それだけに無理なく納得できるし、これまで劣勢に立っていたフェードルたちがまさに怒涛の如く巻き返していく展開には素直にテンションがあがりました。さらに「使徒」のどうなるんだ要素の一つだったジョスランとの関係も収まるところに収まるなど、大方の問題がすっきり片付いて一安心。……まぁ勿論、シリーズがまだ続く以上火種は残ってはいるわけですが。
 ああしかし、第1部の時も思ったけれどフェードルの一人称であるが故に直接的には語られない部分も多々あるのが勿体ない。サブキャラ(特にメリザンド)視点での物語というか「その時何が起きていたのか」な話ももう少し知りたいんだけどなぁ。

 さて、続く第3部「クシエルの啓示」は6月からこれまで同様三分冊で翻訳開始予定とのこと。巻末解説によれば、次は10年後の話になるらしい……つまり、今回はその存在だけが取りざたされていた「彼」も表に出てくることになるのかな。しかも予定されている第1巻のサブタイトルが「流浪の王子」ということは、もしかしなくてもヒアシンス再登場フラグか!? ともあれ、どんな展開になるのか楽しみです。

作品名 : クシエルの使徒 (3)罪人たちの迷宮
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著者名 : ジャクリーン・ケアリー
出版社 : ハヤカワ文庫FT(早川書房)
ISBN  : 978-4-15-020513-3
発行日 : 2010/4/30

1004購入メモ(その2)。

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『カラクリ荘の異人たち4 春来るあやかし』[霜島ケイ/GA文庫]

 「あちらとこちら」が混じり合う場所、空栗荘を舞台にした、少年の心の成長物語、第4巻にして最終巻。さほど親しくないクラスメイトからの突然の問いかけから始まる「東風」、アカネと親しくなった、古い洋館に暮らす老婦人の「猫探し」を手伝うことになる「菜の花いろの灯をともし」、そして表題作「春来たるあやかし」の三話収録。

 ああ、綺麗に終わったなぁ、と。それが読後真っ先に思ったことでした。既刊と同じく派手さはないけれど、けれども、沁み入るように伝わってくる温かいものが実に心地よい。特に今回は、太一が空栗荘で過ごした時間、関わった人や妖たちとの関係等が凝縮されているようで。いろんなものの積み重ねが、太一が目をそらしていた心の傷に向き合うきっかけになって……うん、実に良かったです。正直、それ以外の言葉が思い浮かばないぐらいだ。
 あと、この作品の妖と人との関係というか。相手が「違う」と理解したうえで、それでも隣人として暮らしている、そういう距離の描き方がやはり好きだなぁ、と思いました。

 時は過ぎ、春が来て、また新しい1年が始まる。太一も、今度はちゃんと自分の意志で居場所を選んで、巡る季節を、少し不思議で楽しい日々を友達たちと過ごしていく。そんな光景を容易に脳裏に思い浮かべることができる、素敵な終幕でした。

作品名 : カラクリ荘の異人たち4 春来るあやかし
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著者名 : 霜島ケイ
出版社 : GA文庫(ソフトバンククリエイティブ)
ISBN  : 978-4-7973-5894-0
発行日 : 2010/4/15

『ミストスピリット―霧のうつし身 (2)試されし王』[ブランドン・サンダースン/ハヤカワ文庫FT]

 『Mistborn: The Well of Ascension』、邦訳版第2巻。いよいよルサデルに役者が揃い、物語が本格的に動き出します。

 ああもう、面白いなぁ! 敵対勢力に包囲されているというただでさえ苦しい状況に加え、様々な問題が持ち上がってエレンドは窮地に追いやられることになるのですが、ただただ状況に流されて追い込まれるのではなく、ティンドウィルの指南や諸々の経験から「王」としての成長していく様子に思わず声援を送りたくなります。もっとも、人間生まれ持った性質はそう簡単に変えられないわけで。理想家で誠実なエレンドは間違いなく良い人間なんだけど、それだけにこの状況でそれは駄目だろ!と思うような行動も多々あって、ついには……。それでもそこで、全てが終わったと諦めてしまわず、先に進もうと行動する姿は、かつての彼からは想像できないよなぁ……今巻最後の彼の行動は、なんだか感慨深かった。これはもう、3巻での巻き返しに期待せざるを得ない。エレンド頑張れ。
 一方、ヴィンもまた大忙しで。予言との符合に不安を覚えたりしながらも、エレンドのために奮闘する彼女は、実に健気でかわいい上に格好良い。それにしても、仲間たちの「誰か」が敵の密偵に取って代わられているという事実を理解しながら、「誰もそうであってほしくない」と言う姿は、「ミストボーン」初期からは想像もできなかったよね……と少ししみじみした。終盤には、エレンドとの関係に微妙な影が生じてしまいましたが、これに関しては大丈夫と信じてる。根拠はなにもないけど! とりあえずエレンド頑張れ(二回目)
 そのほかでは、ヴィンとオレ=スールとの関係が段々と変わっていくのにとてもニヤニヤした。なんだかんだでヴィンに絆されていってるっぽいわんこ捻くれかわいいよわんこ。あと、前巻からヴィンにちょっかいをかけてくるゼインは、思っていたよりも良いキャラで。ヴィンの相手はエレンド以外認めませんが(をい)、このあと異母兄弟が力を合わせるような展開があると嬉しいんだけどなぁ……。

 解説によればこのあとにはまた怒涛の展開が待っているようで。混迷を深める状況を、ヴィンやエレンドはどう切り抜けていくのか。6月の3巻発売が待ち遠しい限りです。

作品名 : ミストスピリット―霧のうつし身 (2)試されし王
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著者名 : ブランドン・サンダースン
出版社 : ハヤカワ文庫FT(早川書房)
ISBN  : 978-4-15-020512-6
発行日 : 2010/4/5