『公家武者 松平信平2 姫のためいき』[佐々木裕一/二見時代小説文庫]

 姉の伝手で公家から武士に転身した松平信平(三代将軍家光の義弟)を主役にした時代小説、第2巻。

 前回は短編集でしたが、今回は長編。二年前の由比正雪の乱の残党狩りで騒がしい江戸の町で、浪人狩りに出くわした信平。それを発端に、まだ見ぬ妻の父・紀州藩主頼宣追い落としの策謀に関わることに……という感じの内容。
 今回もテレビの連続時代劇みたいなノリは健在(もっとも、1巻と違って長編だったので、番組改編期のスペシャル版、という雰囲気でしたが) サクサク読めて事件もすっきり解決で、実に後味が良い。信平のキャラクターも手伝って、実にさわやか風味です。
 で、進展するといいなーと思ってた恋模様も期待どおりに少し進展。基本的におっとりしてるというかマイペースな信平が、偶然知り合って密かに気になってたお嬢さんが実は自分の妻だった!と知って、ちょっとだけ出世に積極的?になるのがベタながらニヤニヤしました。微妙に彼女の意図を勘違いしている信平ですが、とりあえず、この先もお互い知らぬふりで町でお茶して仲を深めていくと良いと思うよ! そのほかの登場人物とも比較的良好な関係を築いている信平、人生楽しそうでいいよねぇ……。

 さて、事件を無事解決し、50石を100石に加増されたついでに義父の心象も若干良くなった信平。住まいも変わり、次はどんな事件に関わってどこまで妻との同居条件である1000石に近づくのか。続きが楽しみです。

作品名 : 公家武者 松平信平2 姫のためいき
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著者名 : 佐々木裕一
出版社 : 二見時代小説文庫(二見書房)
ISBN  : 978-4-576-11112-4
発行日 : 2011/8/26

『六人の兇王子III~V(完結)』[荻野目悠樹/幻狼FANTASIA NOVELS]

 秘密結社によって「世界を滅ぼす」兇王子の一人として養育されながら、とある出来事をきっかけに結社から離反・兄弟同然に育った残り五人の兇王子と死闘を繰り広げる宿命を負った青年・ギヴァの苦闘記。2巻まではコバルト版の復刊でしたが、3巻以降は完全新作。そして、先日発売された『レイバリの書』をもって無事にシリーズ完結。
……コバルト版から数えて十数年。途中で続きが出なくなったあのシリーズやこのシリーズも、信じていれば続きが読める日も来るのだろうか(遠い目)

 個人的な感慨はさておき、シリーズ完結しての感想は……「これ、コバルト版のまま話が進んでたらどんな結末になってたんだろう?」の一言に尽きるような。いや、幻狼版ではアンドレッティというキャラが追加されているんですけど、彼が思いのほかいい立ち位置を与えられてまして。彼がいなかった場合、結末はもっとダークな雰囲気になってたんじゃないかなぁと思いました。しかし、ズタボロになりながら必死に戦った結果がこれとは、ギヴァもアンナ・マリアも報われないよなぁ……
 あと、作者氏の文章のクセなんでしょうけど盛り上がってしかるべき場面でもわりと淡々と読めてしまうことに、若干もったいなさを感じたり。まぁこれは個人の好みもあるでしょう。

 とにもかくにも、思いがけず完結したことがなにより嬉しいシリーズでした。幻狼さんは他にもいろいろと拾ってくれてもいいのよ?

作品名 : 六人の兇王子V レイバリの書
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著者名 : 荻野目悠樹
出版社 : 幻狼FANTASIA NOVELS(幻冬舎)
ISBN  : 978-4-344-82299-3
発行日 : 2011/8/30

『戦塵外史 六 双帝興亡記』[花田一三六/GA文庫]

 「大陸」を舞台に様々な時代に生きる人々の物語を描く「戦塵外史」シリーズ、第6巻にして完結巻。

 今回の話は、これまでの作品でもしばしば登場していたガゼルーン帝国の女帝・アイーシアが、一時玉座を追われていた時期を描いた作品、ということになるでしょうか。前半はアイーシアに代わって皇帝となった兄のヴァルキール、後半は北の地に追われながらも力を蓄え、やがて玉座奪還のために動き出すアイーシアの物語となっています。
 アイーシアの話は比較的王道一直線な展開なので、安心して読めたかな。アイーシアが力を蓄えていく過程や側近のハルとの関係の行く末など、ニヤニヤしながら楽しみました。
 もう一方のヴァルキールの話。こちらは、皇帝として権威は手に入れたものの、宮廷を、権力を掌握することができなかった男の孤独さがやるせなかったです。最初は理想に燃えていた人だけに、心が折れた後の描写が余計にね……権威をいいように操っているつもりの相手にここぞという場面で行った反撃すらも、爽快感よりも物悲しさ・哀れさが先に立つ。最期の時、少しは彼の魂が安らぎを感じていたことを祈らずにはいられません。あと、ヴァルキールのパートで忘れてはいけないのは、道化の存在でしょう。ただおどけているようで、実は誰よりも冷徹に物事を見据えている道化の在り方の異質さは、物語の中でも群を抜いていた感じ。そんな彼(?)が何故ヴァルキールの傍に居続けたのか、その理由は判然としませんが……同じ「孤独」なもの同士、幕が下りるまで付き合うのも悪くない、とでも思ったのかな。それにしても、一人次元の違う強さだったな道化……

 地味ながらも手堅い作りで面白いシリーズだっただけに、これで完結というのが本当に惜しいなぁ。「大陸」で起きた様々な事件を拾い上げている、というスタイルなので、いくらでも続けられそうなんですけどねぇ……完結といいつつ、思い出したように続きが出たりしたら嬉しいと思う。

作品名 : 戦塵外史 六 双帝興亡記
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著者名 : 花田一三六
出版社 : GA文庫(ソフトバンククリエイティブ)
ISBN  : 978-4-7973-6082-0
発行日 : 2011/8/12