謎の美女・金星の「婿候補」として、一寸先は闇どころか何が起きるか分からない列車に乗り込み、なりゆきから一緒に行動することになった3人組と彼らと縁付いた人々の冒険、第5巻。
お話的には、そろそろ折り返し地点なのかなーという印象。前巻に引き続き、金星特急内部だけではなく、乗り遅れて追いかけてる錆丸と護衛の三月・夏草、記者のミヤザキに同行(というか利用というか・笑)して錆丸を追う実兄の伊織と暁玲、アルベルトの依頼で言語学者ハハリ氏の後継者たる少年とともに合流を目指す雷鳥・無名、そして、金星によってどこかもわからない場所に集められた少女たち……と、様々な場所で話は展開していくことになりますが、それに伴い純国普の目的も見えてきて、この点がどう決着するのかも気になるところ。
あとはまぁ、書き下ろしの夏草の過去話が……! 本編でも月氏の面々が大活躍で、今回は月氏祭りだなっ!とテンションあがりまくりました。砂鉄とユースタスはもはや鉄板なのですが、ちょっとだけ顔を出したユースタスの元親友が普通に下種なことしてくれやがったおかげで微妙なことに。彗星のほうも、ユースタスが実は女性で、砂鉄も既に恋に落ちているなんて知ったら……どうでるか予想できなくて怖い怖い。錆丸は実に良い主人公に成長中。最後の三月と夏草とのやりとりが実によかった。
さて次巻ではどこまで、どんな風に話が進むのか。雑誌刊行を追いかけてはおりますが、予告されてる書き下ろしの内容も含めて非常に楽しみです。
『修羅場な俺と乙女禁猟区』[田代裕彦/ファミ通文庫]
タイトルと表紙イラストに「ハーレムものなんだろうか?」と思いつつ、作者の人が作者の人だから単なるハーレムものじゃないだろうと判断して購入してみた一冊。結果として、判断に間違いはなかった。
大財閥・遠々原の創始者に養子として引き取られた主人公が、ある日突然花嫁候補だという5人の少女と同居することになり……という冒頭で、ここだけ見れば普通のハーレムものなんですが。実はこの花嫁候補たちは遠々原――ひいては主人公を破滅させてやりたいと思うほど憎んでる。ただ、一人だけは主人公を愛している。主人公に選ばれた花嫁候補は、遠々原家を自由にする権利を得る――という、人生のかかったゲームの幕開けだった、という話。
この主人公がほどよく人でなしというか。花嫁候補が迫ってきても、それに流されず状況やらなにやらを判断していく姿は冷静を通り越して冷徹にすら見えなくもないのですが、根っこの部分で人情を否定しきっていないんですよね。そんなこんなで、そうできる余裕があったとはいえ、今回「後味が悪いじゃないか」と彼が選んだ行動はよいものだったと思いますよ、うん。
また、花嫁候補たちも、目的を達成するために私情を殺して主人公に気に入られなければいけないわけで……普通ならはいはいハーレムなラブコメね、と思うやりとりもそのまま受けとれずうすら寒く感じるという。ある意味、第三者的立ち位置にいる主人公の幼馴染みにして共犯者のメイドとのやり取りのほうがよほど心なごむかも。
ゲームはひとつ状況が進展したとはいえ、まだこれから。主人公の目的もまだぼんやりとしか見えてないし、続きが出るといいなーと思います。
2011年12月の購入予定。
もう今年も終わりか……と遠い目をしつつ、購入ほぼ確定組の自分用備忘録。
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『ゴーストハント(全7巻)』[小野不由美/幽ブックス]
その昔、少女小説が玉石混交で大量に発売&消費されていた頃に、今は亡き講談社X文庫ティーンズハートから刊行されていた小野不由美さんのホラーシリーズ。コミック版が発売されていたり根強い人気はありつつも原典が長らく入手困難な状態にあったのが、約1年かけて加筆修正の上復刊されました。ええもう、うっかり旧版手放していたのでいそいそと購入しておりました。
で、リライト版ということで、おぼろげな記憶と比較していろいろと変わっている面もあり。全体的に、すっきり読みやすくはなってるかなぁと思いました。あと、怖さが地味に上昇してて、さぁくるぞと分かっていても、ぞわっとなったりした。各巻、それぞれに趣向が異なっており、それぞれの怖さが楽しめるのもいい。しかし、よく考えると悲惨・陰惨な状況も多いのに、雰囲気が暗くなりすぎないのは主役の麻衣のキャラが大きいよねぇ、としみじみ思ったりもした。
ホラーな部分だけではなく、登場する個性的なキャラクターたちのやりとりも面白い。個人的にはぼーさんと安原君が好きです。それから、少女小説な要素の名残というかなんというかで麻衣の恋心がシリーズ中で描かれるのですが……これの決着が、なんとも切ない。いや、さすがに初読のときは「えええ、そんなのありー!?」と驚きもしましたが(笑)、読みなおすと伏線もちゃんとあるし納得するんだよなぁ。まぁともあれ、現実を受け止めてこの先も歩いていくのだと、そう自然と伝わってくるような麻衣が印象的でした。
そんなこんなで久しぶりに読んだ(コミック版は読んでないので)「ゴーストハント」シリーズ、面白かったです。願わくば、『悪夢の棲む家』も何とかなって、ついでにひょっこりとシリーズ再開とかなったらすごくうれしいんだけど、ないだろうな……。とりあえず、「十二国記」の新刊待ってますはい。
『瞳の中の大河』[沢村凛/角川文庫]
腐敗した政府と野賊との内戦によって疲弊した、ある王国。理想と正義と信念を胸に、軍務に就いた青年、アマヨク・テミズ。初任務の最中、野賊の罠に嵌った彼は、野賊の頭領の一人オーマと出会う。それが、彼の波乱の人生の始まりだった。
4年前に発売された『黄金の王 白銀の王』が話題を呼んだ、沢村氏のファンタジー作品。長く入手難であったのが、角川文庫から復刊されました。
内容としては、あらすじにもまとめたように一人の英雄の物語、ということになるでしょうか。自分の信じるもののために、愛するものと敵対することも厭わずひたすら愚直に己の意思を貫き進み続けるアマヨクを中心に、オーマをはじめアマヨクの伯父である南域将軍、野賊の一味でアマヨクとは奇妙な縁を結ぶことになるカーミラ、その他様々な人物の人生が交差し、変わらぬように見えた王国に変革をもたらすまでの過程が粛々と描き出されていきます。『黄金の王~』と同じく、困難な道を歩み続けた男の生涯は読み応えあり。文章そのものは素っ気無いぐらいなんですが、中身は熱いです。
彼が最期に報われたかどうかは受け取る人によって意見が分かれるでしょうが、少なくとも本人は終章のとある登場人物の言葉を借りれば、「なかなかいい一生を過ごした」と納得しているだろうな……と思います。
しかし、(作中でも漠然と察するところはありましたが)最後になって明らかになる彼が求め続けたもの、望んで得られなかったものは、なんというか……彼の父親が、もう少しだけ強い人であってくれればと思わずにはいられない、やるせなさが残る。