三週連続刊行中の「ヴェロシティ」、2巻目。
今回は、ひたひたと忍び寄る悲劇あるいは崩壊に向けての溜めの巻、といったところ。しかし、それでも強烈なインパクトを与えてくれるものはあるわけで。とりあえず、「スクランブル」で登場した変態5人組を軽く上回る変態軍団カトル・カールはいろんな意味で強烈でした。本当、あれは強烈としか言いようがない。
他、ボイルドと「運命の女」ナタリアとの交流も良い感じ。この時点でのボイルドは不安定さなどは随所で感じるものの、最終的にあそこまでの変貌を遂げるとはにわかに信じがたいものが。……原因となる出来事は、まぁ分かってるわけですし、最終巻で明らかにされる事柄ではあるのでしょうが、それでもどうしてそういうことになるんだろうと思ってしまいますね。
ああそれから、地味にバロットの兄が登場したりもしてます。ウフコックにとって最良の相棒となるバロットとは逆に、その兄は論評するのも避けたがるほど合いそうにないというのがなんとなく面白い。
溜めに溜めて、遂に始まった崩壊。果たして、最終巻ではどこまで崩壊が進むのか。楽しみなような怖いような。
『KENZAN!』[講談社編]Vol.1買いました。
新創刊の時代小説専門誌。若手作家を集め、時代小説の新規読者層として若者層の取り込みを狙った雑誌のようですねー。
好きな作家が多かった(つーか、これであと宇月原氏が入ってれば個人的には完璧な布陣だった)ので、ちょっと購入してみました。
それなりの値段ですが、個人的にはトップバッターの作品だけでもとが取れるぐらい大笑い……もとい楽しめたので無問題。
以下、小説作品個別の感想を簡単に。
『柳生大戦争』:荒山徹
この人の作品を新創刊のトップに持ってきた講談社の人は、どこかから変な電波でも受けたんじゃないかと思います(真顔で失礼なこと言うな)
内容的には、舞台こそ鎌倉時代になっているけど、いつものように柳生と朝鮮への愛が間違った方向に暴走しまくってて、編集者は止めなくていいのか……と不思議になってくるというか、そんな感じ。とにかく、満遍なく狂ってて大変面白かったです(褒めてますから、念のため)
しかも、今回は導入として過去編だったらしいというのが最後になって判明。毎度おなじみの人も登場したことですし、次回以降はさらに狂った展開になっていくんだろうなーと期待しております。
『雨の離れ山 影十手活殺帖』:宮本昌孝
数年前に発売された連作短編集の新作ですね。……つーか、こうやって新作掲載するってことは復刊予定があると期待していいのですか講談社さん。
掲載されていた作品の中では、一番真っ当な時代小説だった印象。(荒山氏のはそもそも時代小説じゃなくて伝奇バカ小説なので別格扱いにしておくにしても、他のも変化球が多かった) しかし、あくまで個人の好みではありますが今回に関しては東慶寺に駆け込んできた女性は邪魔だった……。いや、単体で読めばそちらの話も十分面白かったのですが、普通に紀乃が攫われて和三郎が血相を変えて探索に乗り出すってことでいいんじゃないかなー、と。
『山彦ハヤテ 雪虫』:米村圭伍
「冷飯伝」や「姫君伝」の作者さん。はぐれ狼の「尾ナシ」と共にお留め山に隠れ住む天涯孤独の少年ハヤテが、倒れていた侍を拾ったことから始まるささやかな交流が描かれます。
ですます調の文体は少し苦手なんですが、さすがに上手いし良作。別れの言葉の代わりに山に響きわたる童歌に、思わず涙。
『楽昌珠』:森福都
他の執筆陣が日本を舞台にした作品の中、この方は中国は唐代を舞台にした志怪+公案小説。いつものジャンルといえばそうだし、それが悪いとは言いませんが、一瞬「お、初の日本モノか?」と期待しただけに微妙にガッカリ。
話としては、二郎、七娘、小妹の幼馴染3人が不可思議な出来事に導かれて山奥の仙境にて再会。いろいろと語り合ううちに眠りに誘われ……ふと気がつくと、二郎は「別の世界の自分」になっていた、というもの。一応、メインは「夢の世界」の方になるのかな。武則天に仕える官吏の一人である蘇応祥(二郎)が巻き込まれた宮中の実力者への復讐劇。まぁ、いつもの雰囲気の話なので安定して楽しめました。
で、最後(了)になってるけど続くんですよね、これ? そうじゃないと、あちらの3人組の話はどうなるんだと……。
『南大門の墨壺』:岩井三四二
この作家さんの作品はこれまでなんとなく縁がなく、これが初読み。東大寺再建に関わる番匠の青年の成長物語になるんでしょうか。この1話を読んだ限りだと、主人公のあまりの至らなさにかなり辟易したのですが。
『ちよこれいと甘し』:畠中恵
「しゃばげ」シリーズ(新潮社)が大人気の畠中さん、今回は文明開化の明治を舞台に洋菓子職人を志す青年がひょんなことから巻き込まれた騒動を描いた作品。
うん、まぁ、面白かったです。とある登場人物には一発でいいから殴らせろと思う程度にムカっ腹が立ったりしましたが。
……しかし私、この人の作品はそれなりに面白いと思えても何故か「好き」にはならないんだよなぁ。文章があわないんでしょうかね。
『タクティカル・ジャッジメント9 被告人・山鹿善行』[師走トオル/富士見ミステリー文庫]
悪辣敏腕弁護士が口八丁手八丁、違法スレスレ(むしろ違法)な手段を駆使して無罪を勝ち取っていく法廷劇第9巻。
今回は題名からも一目瞭然なように、善行がハメられ殺人犯として逮捕されてしまう、という話。……まぁ、だからといってやることはいつもと変わらないわけですが(苦笑)
しかし、今回ばかりは相手もそれなりの狸だったというべきか、打つ手が打つ手が微妙に不発で段々追い込まれていくのが面白かったです(酷) そして、最後の逆転手段が言い訳の余地もないほど完璧に黒だったことは、もはや何も言うまい……という気分にさせられました。
これにて第1部完結ということで。主役交代となるらしい第2部がどういう風に展開されるのか、楽しみですね。
『マルドゥック・ヴェロシティ1』[冲方丁/ハヤカワ文庫JA]
「マルドゥック・スクランブル」(全3巻)の前日譚。ボイルドとウフコックが「楽園」の外に出て、やがて決別に至るまでの物語。3週連続発売の1巻目。
意図的にこういう文体にしてるんだろうなーとは思いつつ、微妙に読みにくくてどうしようかと思いました。慣れてくるとこれはこれでいいかと思うけど。
今回の話ではウフコックたちと同じく「楽園」で生み出された、「マルドゥック・スクランブル-09」成立時の初期メンバーも登場するのですが、これがまた個性的な面々で。それぞれが人体改造によって規格外の能力を備え、だからこそなのか内面には人間らしくもある彼らのやり取りには和んだり切なくなったり。
しかし、ボイルドとウフコックの関係も勿論そうですが、SFマガジンに掲載されていた紹介編を読んでいるので先が分かってしまっている人が何人もいるのが辛いなぁ。オセロットがああなる理由も書かれるのかなぁ。勿論書かれるんだろうなぁ。嗚呼、読んだら凹みそう。
『宝印の騎士』[西城由良/新書館ウィングス文庫]
宝珠を体内に取り込むことで、体に刻印される「宝印」。持ち主に様々な力を与える神秘の力だが、その力を得るための学院は特権階級など限られたものにしか門が開かれていない。誰にも頼らず生きてきたスラム出身の孤児・ノイルは、貴族の庶子であることを利用して宝印学校に通い、宝印を得ようと必死で勉強してきたが、あろうことか卒業試験で落第を言い渡されてしまう。校長から救済策として、同じく落第した下流貴族の少年・ウィリップと共に追試を言い渡されるが、ウィリップは追試以上に気になることがあるようで……。
地味に良作を売り出すレーベルという印象なウィングス文庫ですが、この新人さんの作品も例に漏れず。地味ですが、普通に面白かったです。
主な登場人物は、ノイルとウィリップ、そして大貴族の子息でノイルとは従兄弟になるティフィールの3人。ノイルとティフィールは犬猿の仲でこの二人だけだと会話がなくても非常に刺々しい感じなのが伝わってくるのですが、そこに天然気味なウィリップが混ざるとあら不思議。たちまちペースが乱され、それなりに仲良く(?)やっていってるような気がしなくもないのがなんとも微笑ましいです。皆で一緒にランチはまだ当分無理そうですが、それでもそう遠くないうちに実現しそうだし。
コンビ未満の少年たちの成長も楽しみなことですし、また続きが読めると良いなーと思います。