『マルドゥック・ヴェロシティ3』[冲方丁/ハヤカワ文庫JA]

 3週連続刊行の「マルドゥック・ヴェロシティ」、最終巻。

 クリストファーの誘拐から始まった悲劇は止まることなく加速。敵も味方も一人ずつその数を減らしていく内、肥大していく虚無。敵の周到な罠に絡めとられた末の、最後に残った仲間(あるいは良心)を守るための選択。そして、最期に辿りついた爆心地(グラウンド・ゼロ)――どれもこれもが凄絶の一言に尽きます。今「スクランブル」を読み返したら、きっと彼の言動・行動の一つ一つに対して全く印象が変わってしまってるんだろうなぁ。
 ボイルドの失墜だけでなく、09のメンバー皆が個性的かつ魅力的だっただけに、その最期には予想以上に打ちのめされてしまいました。特にやるせなかったのはオセロット。SFマガジン掲載時の紹介編からは、もう少し違った経緯であの状況に追い込まれるんだろうと思っていたのですが……前後の描写と合わせて、とにかく悲痛(そういえば、オセロットの最期だけでなく紹介編とは変わってる部分も結構ありそうですね。シザースは根本的な設定そのものが変わってそうな気が) あと、ウィスパーの「SHOOT」はイースターの行動とあわせて泣けました。一方、敵役に関してはちょっと不満が。いや、その誕生背景が明かされたことでカトル・カールたちにすら同情的な気持ちを抱けたのに、「スクランブル」に引き続いてのオクトーバー一族のグダグダぶりはどうにかならなかったのかと。

 さて、「スクランブル」の単なる前日譚に止まらず、単品としても傑作に仕上がった「ヴェロシティ」。これを読み終わって望んでしまうのは、やはり「スクランブル」以後の話ですね。東京の方で開催されたサイン会でちらりと構想は語られたそうですが、バロットと「彼女」が将来出会うことがあるならそこからどのような物語が生み出されるのか。いつの日か、読めることを期待しています。

作品名 : マルドゥック・ヴェロシティ3
    【 amazon , BOOKWALKER
著者名 : 冲方丁
出版社 : ハヤカワ文庫JA(早川書房)
ISBN  : 978-4-15-030871-1 → 978-4-15-031079-0
発行日 : 2006/11/22 → 2012/8/23(新装版)

『Under the rose 4 春の賛歌』[船戸明里/バーズコミックス]

あいかわらずエグイ話。今のところ救いが欠片も見えない展開なので、読んでて非常に嫌な気分になります。つーか、ウィルがあまりにアレなので、「無神経な善意の人」で一番苦手だった伯爵ですらマシに思えてくる始末。そして、歪んでる面や他人を平気で利用し使い捨てる一面などもあるにしろ、普通に大人なアルの株が上がり、随分角が取れたライナスの姿にほっとします。

「春の賛歌」はウィルとレイチェルが中心ではありますが、レディ・ロウランドことアンナの在り方もクローズアップされてる気がする。とりあえず、この巻読むまではアンナさんは本人は認めたくないだけで伯爵にそれなりに愛情を抱いてるんだと思ってたんですが……甘かったですな。「愛であってはならない」という言葉に憎悪や嫌悪ばかりではない複雑な心境もあるのだろうと思いたいところ。

それにしてもこの話、一体どういう結末になるのか想像がつきません。「春の賛歌」という副題からは想像できないほどドロドロしまくってる現在ですが、「冬の物語」のように雪解けの季節は訪れると思っていていいのでしょうかねぇ。

作品名 : Under the rose 4 春の賛歌 【bk1】
著者名 : 船戸明里
出版社 : 幻冬舎(バーズコミックス)
ISBN : 4-344-80866-5
発行年月 : 2006.11

『ご用命は!四方探偵事務所』[綾部いちい/B’s-LOG文庫]

 今月2冊目のB’s-LOG文庫。簡単に内容をまとめるならば、美形ぞろいの探偵事務所(探偵4人+アルバイト1人)に持ち込まれる怪事件の記録集といったところでしょうか。

 普通に面白かったというか、あまり深く考えずに軽く楽しめるという点では良かったです。仮にも「探偵事務所」なわりにまともに調査したり推理したりしてる場面はほとんどなかった気がするけど。ついでに言うなら、キャラはいろんな意味で類型的かなぁとかあんまり生きてない(むしろ無駄な気がする)設定も多々あったけど、これは今後の展開しだいかなー。

 さて、最終話にて見事に(?)ライバル認定されてしまったことだし、この先も探偵事務所の面々と怪人王率いる「K×3」の対決は続くのでしょうか。それなりに楽しみ。

作品名 : ご用命は!四方探偵事務所
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著者名 : 綾部いちい
出版社 : ビーズログ文庫(エンターブレイン)
ISBN  : 978-4-7577-3040-3
発行日 : 2006/11/15

久しぶりに完全オフ。

今日は何とか仕事を持ち帰らないですんだので、微妙に浮かれ気味。
いろいろ新刊も届いていることだし、のんびり読書することにします。

で、のんびり体勢に入る前に、部屋の片隅に積み上げられていた新刊の山をちょっと整理、しがてら読み崩し開始。
日本ファンタジーノベル大賞受賞作2作は、ぱらぱらっと見た限りでは『僕僕先生』が予想以上にライトノベルっぽい。新潮社にしてみれば、「目指せ第二のしゃばげ!」という感じなんでしょうかねぇ。まぁ悪くはなさそうだけど、個人的には『闇鏡』のほうがこの賞に期待している作風のような気がする。
宇月原氏の『天王船』は予想通り『黎明に叛くもの』新書版の外伝を1冊にまとめたものだったので、加筆修正があるかは気になるけど特に急いで読まなくてもいいかなー。
『銃姫』8巻は、あれ、これで完結じゃなかったの?とちょっと思ったり。
『鋼の錬金術師』の最新刊は……うーん、実はここ数巻微妙な感想を持つようになっているのですが、今回は特にどこがどうと具体的には表現できないんだけど読んでて居心地が悪かった。作者氏と私の感覚が根本的に違うのだろうか。
『BLACK LAGOON』6巻は、最後に重要(?)な設定が明らかになったものの基本的にドタバタ劇の「偽札」編と、戦うメイドが再び銃を握ることとなる「ロベルタ復讐」編序盤まで。バラライカ姐さんが(巻末おまけを除いて)登場しないのがちょっと寂しいですが、いつもどおり面白かった。

……それにしても、一番読みたいマルドゥック・ヴェロシティ3巻がまだ届いてないのが哀しい……(某クロネコさんに恨みがましい視線を向けつつ)

『紫の末裔』[藤咲あゆな/B’s-LOG文庫]

 B’s-LOG文庫、創刊第2弾。あらすじ読む限りではちょっと微妙な気がしつつ、とりあえず購入してみた1冊。

 感想。一言で言えば、特殊能力付の必殺仕事人みたいな話でした。ただ、丁寧といえば聞こえはいいけど、それにしても展開がゆっくりすぎなのが個人的にやや微妙。主人公の少年・優生が諸々の裏話やらを聞かされて当面の自分の身の振り方を決め、さぁこれからというところで終わってるし。せめて、もうちょっとストーリィ展開に緩急がついていれば良かったと思うんですが、ねぇ……。

 その他細々と釈然としない部分はありましたが、まぁそれでも次巻が出れば過去に優生の家庭を襲った犯人が判明したりするのか、ちょっと気になるところです。

作品名 : 紫の末裔
    【 amazon
著者名 : 藤咲あゆな
出版社 : ビーズログ文庫(エンターブレイン)
ISBN  : 978-4-7577-3038-0
発行日 : 2006/11/15