『Y十M -柳生忍法帖- 6』[山田風太郎(原作)・せがわまさき/ヤングマガジンKCスペシャル]

 5巻に引き続き会津への道中編(41話~49話)と、いよいよ会津到着となる50話までを収録した第6巻。

この巻で第8のヒロイン、というか後半戦MVPと言ってもいい気がするおとねが登場。最初はどこにでもいそうな普通の娘さんと言う風情だったのに、明成に嬲られ虚ろな姿になっていくのが痛々しくてもう……。この行いだけで万死に値するわこの馬鹿殿め。
他、沢庵の地味な精神攻撃やら十兵衛を巡る微妙な女心やらいろいろ楽しい部分もありますが、一番読者の度肝を抜くのはやはり廉助の「女人袈裟」ではなかろーかと。初めて原作読んだ時は、「こんなの思いつく時点でこいつ馬鹿だ。馬鹿に違いない」と思ったものですが、改めてビジュアルで見るとやっぱり馬鹿ですな(酷) しかし、これが十兵衛たちに下手な手出しをさせない手段であることには間違いなく。手をこまねく十兵衛に対し、救いの手となったのは意外にも武芸の「ぶ」の字も知らない御坊2人。ここでの御坊たちの決死の行動と一人残った薬師坊、その変わらず柔和な表情にえもいわれぬ迫力を感じます。

で、50話ラストでいよいよ御国御前(側室)のおゆら登場。なんか想像していたよりも(目つきやらにそこはかとなく妖艶さが漂ってるけど)可愛らしい系だなーと思う一方、中身はきっと変わってないだろうからその容貌と行動とのギャップが際立ってくるかもとも思った。

作品名 : Y十M -柳生忍法帖- 6 【bk1amazon
著者名 : 山田風太郎(原作)・せがわまさき
出版社 : 講談社(ヤングマガジンKCスペシャル)
ISBN : 978-4-06-361526-5
発行年月 : 2007.2

amazonのインスタントストア。

この間からぽちぽち商品を並べて遊んでいたインスタントストア、とりあえず「趣味の店・空想堂-別館」としてリンクつなげてみました。
お気に入りやら読んで面白かった本やら個人的趣味に走りまくった本やらを適当に並べてあるだけですが、まぁ何かの参考にでも。

……どうでもいい話ですが、私にとって『はてしない物語』は明らかに特別枠のお気に入りで、あとはどれだけ好きな本でも割と横一列に並んでるんだなーと、これ作ってる時に改めて思い知りました。

『スプライトシュピーゲル I Butterfly & Dragonfly & Honeybee』[冲方丁/富士見ファンタジア文庫]

 角川書店の『ザ・スニーカー』と富士見書房の『ドラゴンマガジン』の2誌でそれぞれ別の物語が連載されているという、変則的な冲方氏の新シリーズ。『ザ・スニーカー』連載分は、ミリオポリスの公安局に所属する要撃小隊(MSS)の物語。

 ……小隊3人のテンションというか口癖というかでカトル・カール@ヴェロシティを連想してしまい、その後ネットでウロウロ感想を見てみたら同様の人が何人かいたことになんとなく安心した今日この頃。
 それはさておき、「スプライト」。小隊のメンバー3人――鳳(アゲハ)、乙(ツバメ)、雛(ヒビナ)の3名は「オイレン」3名と同じくそれぞれ重い過去を背負っているけど、あちらよりそれに囚われている描写がなかったためかそのあたりはあっさり流せたのですが(いや、流しちゃいけないんだろうけど) しかし周囲との関係や政治的な思惑などはこちらの方がより書き込まれていた感じで、この世界の現状にどうしようもない思いを抱いてしまいました。特に、第5話・第6話の「シティ・オブ・フェアリーテール」が悲痛な話で……。その辺りの悲惨さを含め、現時点では「オイレン」よりも「スプライト」のほうがやや最前線にいる、という印象でした。

 まだ二つの小隊は直接絡んできませんが、この先「トラクルおじさん」やプリンチップ社との戦いが続いていけば接点も出来てくるのでしょうか。先が楽しみです。

 余談。「スプライト」にちょい役で登場したMPBの副長。この場面だけ見てると普通に格好良いのになーと、「オイレン」での遊ばれぶりを思い出してなんとなく哀れみをこめた視線で眺めてしまった。

作品名 : スプライトシュピーゲル I Butterfly & Dragonfly & Honeybee
    【 amazon , BOOKWALKER
著者名 : 冲方丁
出版社 : 富士見ファンタジア文庫(富士見書房)
ISBN  : 978-4-8291-1897-9
発行日 : 2007/1

『オイレンシュピーゲル 壱 Black & Red & White』[冲方丁/角川スニーカー文庫]

 角川書店の『ザ・スニーカー』と富士見書房の『ドラゴンマガジン』の2誌でそれぞれ別の物語が連載されているという、変則的な冲方氏の新シリーズ。『ザ・スニーカー』連載分は、舞台となるミリオポリスという都市の治安維持を担当する遊撃小隊の物語。

 文体は「ヴェロシティ」程ではないとはいえ記号を多用した独特なものですが、まぁ既に慣れたので苦戦することなく読めました。
 内容は相当乱暴にまとめると、身体的障害を補うため体の一部を機械化する政策が採られている近未来の都市で、特に治安維持目的で通称「特甲」と呼ばれる機械義肢を与えられた少女たちがテロや犯罪の横行するろくでもない世の中を生きていく話、というところでしょうか。この巻は全3話で構成されていて、遊撃小隊の三人娘――「黒犬」涼月、「紅犬」陽炎、「白犬」夕霧の3名それぞれの過去を絡ませつつ、今後の展開への準備も余念なく行われていた印象。3人の抱える過去はどれも悲惨ではあるんだけど、本人たちが時折それに苦しめられながらも過度に哀れまず日々を強かに生きている姿が良いですね。要所要所で描かれる3人の信頼関係もまた良し。

 登場人物紹介も終わったところで、この先は都市の裏側で暗躍するプリンチップ社との戦いが本格的に始まるのでしょうか。「スプライト」との繋がりも含めて、続きが楽しみ。

作品名 : オイレンシュピーゲル 壱 Black & Red & White
    【 amazon , BOOKWALKER
著者名 : 冲方丁
出版社 : 角川スニーカー文庫(角川書店)
ISBN  : 978-4-04-472901-1
発行日 : 2007/1

『始まりのエデン -新たなる神話へ-』[榎田尤利/講談社X文庫ホワイトハート]

 カタストロフィー後に形成された歪な支配体系と対峙する二人の若者とその仲間たちの物語、ついに完結。

 …………………………ダ、ダメージが予想以上に大きい。いや、バッドエンドも(話の流れ的に自然であれば)好きだし、そもそもバッドエンドというほどではないと分かっているんですが。それでも、精神的にかなりきつかった。皆揃って幸せになって欲しかったよー(涙)
 えーと、話的にはちょっと急展開というかあれこれ端折りすぎだったような。地の文の説明で流すだけじゃなく、過程ももう少し書いて欲しいなーと思う部分も多々あったのが少し残念。しかし、フェンの回想や行動はいちいち泣けて困りました……。ラストシーンなんかもう号泣。

 変わり始めた世界で、生き残った人々はどう生きていくのか。もはや語られることはなく想像をめぐらすことしか出来ませんが、願わくば、彼らが残した多くのものが生かされる、そんな世界が創られていきますように。

作品名 : 始まりのエデン -新たなる神話へ-
    【 amazon
著者名 : 榎田尤利
出版社 : 講談社X文庫ホワイトハート(講談社)
ISBN  : 978-4-06-255936-2
発行日 : 2007/2/2