GA文庫から復刊中の花田氏の初期作品シリーズ3冊目。今回はカルディア帝国と彼の帝国に抗するために同盟を結んだ北方三国の間に起きた戦いと、戦乱に翻弄される人々を描いた長編。
あらすじから大軍同士の戦いがメインかと思いきや、そこに至るまでの過程のほうにより多く筆が割かれているのが特徴的。「後世の歴史研究家の視点」を通した、時代そのものを俯瞰した物語は淡々とした文体と相まって一見すると地味な話との印象を受けます。しかし、敵国間の謀略や諜報戦は勿論のこと、同盟内部での駆け引き等で意外なほど面白く読ませてくれます。
平行して描かれるのは、三国同盟の一角ゼニツア王国の密偵とカルディア帝国で暮らす遊女の物語。戦乱に翻弄された彼らの迎えた結末はやるせない。最後の騎乗姿もやはり、作中の言葉を借りれば「毅然という単語の実物」だったのでしょうかね……。
さて復刊分はこれにて終了となりましたが、あとがきによれば雑誌掲載作を収録した短編集+新作2冊が確定したようで、これは素直に嬉しい。新作も楽しみだけど、短編集も「最後の仕事」とか(うろ覚えですが)すごく面白かった記憶があるので早く再読したいです。
『エパタイ・ユカラ 愚者の闇』[高丘しずる/B’s-LOG文庫]
諸々の要因から東西に分割されてしまった近未来の日本を舞台に、波乱の人生を歩むことになる少女・黎良の物語、第2巻。
黎良の心情は作中で触れられているとはいえ、それでももっと早い段階で別の選択が出来なかったんだろうか、とどんどん深みに入っていく姿を見ていると思ってしまいました。出来ないからこそ、だとは勿論分かってはいるのですが。
それにしても、まだこの段階では覚悟が甘かったとしか表現のしようがない黎良に対して、彼女が失ってしまったものを思い知らされるあの場面はなんともいえない心境に。彼女たちの心境も、黎良の行動が弁護出来るものではないと理解しているだけに、ねぇ……。1巻での描写からすると、壊れてしまった関係もこのままで終わらず何がしかの変化があるのだろうと思いますが、はてさて。
実父との再会を経て本格的に戻れない道に踏み込んだ黎良。この先も彼女は変わっていく、あるいは変わらざるを得ないのでしょうが、その変化は果たして歓迎できるものなのか。続きが楽しみなような、不安なような。
6月2週目の購入メモ。
『百鬼夜行抄 9』[今市子/朝日ソノラマコミック文庫]【bk1 ・ boople ・ amazon】
『カナスピカ』[秋田禎信/講談社]【bk1 ・ boople ・ amazon】
『べろなし』[渡辺球/講談社]【bk1 ・ boople ・ amazon】
『ヘビイチゴ・サナトリウム』[ほしおさなえ/創元推理文庫]【bk1 ・ boople ・ amazon】
『大久保町は燃えているか』[田中哲弥/ハヤカワ文庫JA]【bk1 ・ boople ・ amazon】
『エパタイ・ユカラ 愚者の闇』[高丘しずる/B’s-LOG文庫]【bk1 ・ boople ・ amazon】
『シャギードッグII 人形の鎮魂歌~defeated~』[七尾あきら/GA文庫]【bk1 ・ boople ・ amazon】
『戦塵外史 三 大陸の嵐』[花田一三六/GA文庫]【bk1 ・ boople ・ amazon】
7月の新刊購入予定。
毎月恒例、現時点で発売予定&購入ほぼ確定な書名のメモ。
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『龍族 創世の契約1』[花田一三六/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]
硬派な架空歴史ファンタジーを得意とされる花田氏の新シリーズ。ちなみに全5巻予定。
龍族、鳥族、犬族、猫族、そして人族。5つの種族の中でもっとも下位におかれ、大陸の片隅に追いやられた人族たち。彼らの暮らす街に、「一生で一度で会えたら幸運」とまで言われる龍族が来訪してきたところから物語は始まります。
特定の人物ではなく舞台となる街に焦点を当て、そこで暮らす人々の姿や抱える問題を描くことで、相対的に世界設定等を印象づけているというか、まぁそんな印象でした。
途中までは連作短編形式で構成されているのですが、どの話も登場人物にそれぞれの味があって楽しめました。で、最後までこの形式で行くのかと思っていたら、終盤はその中から一人の人物が大きな流れに巻き込まれていく展開に。次巻以降は彼を中心人物に据えた長編になるのかな。この先、彼がどんな冒険を経てこの世界の謎に迫っていくのか、楽しみなところです。