『Under the rose 10 春の賛歌』[船戸明里/バーズコミックスデラックス]

1~2年に1冊ペースで単行本発売中の、ヴィクトリア時代の英国貴族の館を舞台にした物語、第10巻。

虚飾が剥がれ歪みが白日のもとに晒されたロウランド家に、「えぐい……つらい……」としか言えなくなっていくのがなんともはや。これまではどんな目にあっても立ち上がり続けてきたレイチェルもいろいろありすぎて心折れかけてるし……ザックの悪意のない言葉が敬虔な彼女の精神にとっては最悪の一撃になったのが、またつらい。一方で、明らかになっていくアンナの精神性、あるいは病状。あの病気かそうか……と納得しつつ、少女の頃から前に進めなかったが故ともいえる彼女の現状が痛々しい。「彼女の妄想」と作者のいうラスト2ページが現実になっていたらあるいは変わっていたんだろうか。
あと、今回驚いたのがモルゴース伯母様。え、なにふつうに正論だし良い人!?と今までとのギャップにちょっと混乱するほどだった。中でも、アンナの放った、彼女としては最大の攻撃だったろう言葉を、あっさりと受け止めた上に何倍にもして返した伯母様は、怖いけど正直強いしかっこいいとさえ思った。立ち位置が変われば彼女もまた見え方が変わるということなんだろうけど、こうなると逆にはにろのアレがどこまで正確なことなのかわからなくなってきたような。今後の展開で物語の空白が埋まっていけば、そのあたりの謎も見えてくるんだろうとは思いますが、はてさて。

さて、終盤はまた衝撃の展開でしたが、これが最後の一押しで、なのかな……。11巻を読むのが楽しみでもあり恐くもあり。……それにしても、この章はレイチェルとウィルの関係がメインだと思ってたのに、今の段階ではいろんな意味でアンナが中心になってるな……

作品名 : Under the rose 10 春の賛歌
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著者名 : 船戸明里
出版社 : 幻冬舎コミックス(バーズコミックスデラックス)
ISBN  : 978-4-344-84122-2
発行日 : 2017/12/21

「好きなライトノベルを投票しよう!! 2017年下期」に投票してみる。

いちせさん主宰の「好きなライトノベルを投票しよう!! 2017年下半期」、今回も賑やかしで参加です。

『テスタメントシュピーゲル3(下)』(冲方丁/角川スニーカー文庫)【17下期ラノベ投票/9784041051818】 → 感想:2017.07.20
『怪奇編集部『トワイライト』2』(瀬川貴次/集英社オレンジ文庫)【17下期ラノベ投票/9784086801577】 → 感想:2017.12.10
『茉莉花官吏伝』(石田リンネ/ビーズログ文庫)【17下期ラノベ投票/9784047347045】
『異人街シネマの料理人(3)』(嬉野君/ウィングス・ノヴェル)【17下期ラノベ投票/9784403221187】
『夏は終わらない 雲は湧き、光あふれて』(須賀しのぶ/集英社オレンジ文庫)【17下期ラノベ投票/9784086801409】

なにはともあれ、テスタメントシュピーゲル完結が感慨深かったです。良い最終巻だった……。
須賀さんの「雲は湧き、光あふれて」はシリーズ3冊目になりますが、こちらもよい青春野球物語でした。新シリーズなので手を出した茉莉花は今後の展開に期待してます。

2018年、はじまりました。

新年あけましておめでとうございます。今年も昨年と同様、無理しない程度に更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
……あらためて振り返ってみると、2017年後半は仕事が地味に忙しかったりしたせいもあってストップしたけど、前半はここ数年間で一番更新できてたな……。今年も同程度以上の更新を目指したいところ。つーか、感想をもう少しさらっとした書き方にしてみたり、あと観劇とかゲームとかの感想を書いたりしていくのもいいかもしれない(夢を書くのは自由)

『怪奇編集部『トワイライト』2』[瀬川貴次/集英社オレンジ文庫]

大学の先輩の紹介でUMAや怪奇現象を扱う雑誌の編集部でアルバイトをすることになった大学生・駿(実家は神社で人並み以上に超常現象を呼び寄せやすい性質)が遭遇する出来事を描いた短編集、第2巻。

1巻もそうでしたが、裏の作品紹介で「まったりオカルト事件簿」と書かれてるけど、実はこれ相当怖くないだろうか……?(特に1話目)と首をひねって考えてしまう。でも、怖いはずなのにやっぱり妙にコミカルで笑えてしまうという、不思議な面白さがありました。個人的には1話目の幽霊旅館の話がオチも含めて気に入りましたが、2話目のなんと表現すればいいのかわからない混沌としたノリも楽しかったです。
キャラクター的には、駿の弟が兄のバイト先を知って現状確認兼ねて遊びにくる、というのはまだ想定内でしたが、編集部を逆恨みする自称預言者が襲撃してきたのは「そういうのもありなんだ!?」という感じでしたね。この自称預言者の薔薇王院さん、いろんな意味でインパクトの強いキャラだったけど、また絡んでくるのかな……絡んでくるんだろうなああの様子だと(笑) あと、駿以外の編集部の面々も肝が太すぎて、このひとたち実は今出てる情報以上に何かあったりするんじゃないだろうかと勘ぐってしまうレベルなんですが、果たして。

今回さらりと判明した駿の置かれた境遇もこの先関わってくるだろうし、千夏ちゃんの想いの行方も含めて楽しみなので、また1年後ぐらいに新刊が読めたら嬉しいなあと思います。

作品名 : 怪奇編集部『トワイライト』2
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著者名 : 瀬川貴次
出版社 : 集英社オレンジ文庫(集英社)
ISBN  : 978-4-08-680157-7
発行日 : 2017/11/17

『テスタメントシュピーゲル3(下)』[冲方丁/角川スニーカー文庫]

近未来の世界、テロの脅威に晒されている都市・ミリオポリスで戦う少女たちの物語「テスタメントシュピーゲル」最終幕後編。

感無量。その一言に尽きました。
上巻から続く涼月の突撃さながらの勢いで、残った伏線の回収や諸々の過去・因縁に決着がついていく様は、まさに怒涛・圧巻。
何を言っても足りない気がするのですが、とりあえず登場人物について。「何でもかんでも殴って解決する」涼月は、どんな状況でも前に進み続ける姿が最後まで最高すぎました。鳳は皇と蛍との会話と最後の駅での冬真とのやりとりがよかった。陽炎と乙は、シリーズ最初の頃は怯えるばかりだった過去にまっすぐ向きあい、そして勝ち取った結末に万感の思いがこみ上げた。夕霧は……最期に声が届いたのは、彼にとっても救いではあったのでしょう。雛は某所就職確定と思っていたので、とても嬉しい予想の裏切られ方でした。登場時は恐ろしいばかりだった特甲猟兵達は、真相がわかってなんともやりきれない気持ちに。届かなかったもの、握りつぶされた想いがなんともやりきれず……かろうじて夕霧の声が届いた白露と、ある場面で某人を殴りつけたギリアンに、多少ではありますが救われた気分でした。つーかギリアンさんは全体的にカリカリしてるのに、おもしろかわいいひとだったよね……。その他の悪党どもの末路は、これまでの溜飲が下がった気分(某団体に関してはいろいろと複雑な思いもなくはない) しかし、「偉大なる龍王」「ムニン」「サイクロプス」と、ここまで引っ張ったローデシア幹部連中が意外と小者だったのは、ある意味リアルな感じでしたね……。あ、上巻の時点で予想してた彼らの正体、サイクロプス以外は当たってました。

報いられざること一つとしてなからん。事前に予想していた以上の大団円は、ここまで戦い続けてきた少女たちの「卒業」に相応しい、未来に向かって踏み出した彼女たちの姿に希望を感じる、とても素晴らしいものでした。この物語が読めて、良かったです。

作品名 : テスタメントシュピーゲル3(下)
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著者名 : 冲方丁
出版社 : 角川スニーカー文庫(KADOKAWA)
ISBN  : 978-4-04-105181-8
発行日 : 2017/7/1