『流血女神伝 喪の女王8』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]

 架空歴史ファンタジー「流血女神伝」、ユリ・スカナ編第8巻にして、全27巻に及んだシリーズの完結巻。

 感無量。読了後の素直な感想は、この一言に尽きます。流石に1冊に詰め込むのは限界があったのか、やや駆け足気味に感じる部分もありましたが、それでも「神と人の物語」としては見事に収束した、という印象。
 何を語ってもネタバレになりそうなんですが、登場人物たちの生き様には何度も涙しました。主要どころでは、ルトヴィアを決定的な滅亡から守るために最後まで力を尽くしたドーン、グラーシカ、ミュカ。ユリ・スカナ国母として人間的にこれから大きく成長するかと思えたネフィシカ、心の闇に囚われ押しつぶされそうになりながら、いくつかの経験を経てようやく精神の安定を取り戻したイーダル。病魔に冒された人々のため献身を続けたオレンディア、死期の迫る自身を省みずトルハーンとの戦いに挑んだギアス。彼らだけでなくその他の面々も、己の意地と誇りを持ってそれぞれの人生を生き抜いていったのだと、その迫力が文章の行間からも伝わってきたような気がします。……ただ、バルアンひいきの人間としては彼の出番が少なかったのがなんとも寂しくはありましたが。まぁ確かに、「喪の女王」では主要登場人物から外れてたけど……でも、少ない描写の中にカリエに対する感情が垣間見えたのはちょっと嬉しかったです。
 そして、最後になりましたが、常に過酷な運命に翻弄されながらも頑張った主人公のカリエ。彼女に関しては、おおよその言いたいことを作中の最後でまとめられてしまったので、ただ、お疲れ様と述べるに留めておきます。

 さて、「流血女神伝」は完結しましたが、あとがきによれば子供世代の話の構想もあるそうで。神々の支配から解き放たれた「人の物語」はどのようなものになるのか。今から楽しみです。

作品名 : 流血女神伝 喪の女王8
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著者名 : 須賀しのぶ
出版社 : 集英社コバルト文庫(集英社)
ISBN  : 978-4-08-601090-0
発行日 : 2007/11/1

10月5週目の購入メモ。

『千年の時をこえて』[沢村凛/学習研究社・エンタティーン倶楽部]【bk1boopleamazon
『黄金の王 白銀の王』[沢村凛/幻冬舎]【bk1boopleamazon
『流血女神伝 喪の女王8』[須賀しのぶ/集英社コバルト文庫]【bk1boopleamazon
『旋風天戯 ~宿命と血と呪いと~』[瀬川貴次/集英社コバルト文庫]【bk1boopleamazon
『沙漠の国の物語 ~風はさらう~』[倉吹ともえ/小学館ルルル文庫]【bk1boopleamazon
『タルト・タタンの夢』[近藤史恵/創元クライム・クラブ]【bk1boopleamazon
『秘曲 笑傲江湖6 妖人東方不敗』[金庸/徳間文庫]【bk1boopleamazon

『〈本の姫〉は謳う 1』[多崎礼/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]

 昨年『煌夜祭』で第2回C☆NOVELS大賞の大賞を受賞し、デビューを飾った作者氏の受賞後第1作ということで、期待して購入してみました。

 内容を要約すれば、世界各地に散らばっている力ある文字(スペル)を回収している少年アンガスと〈姫〉の冒険譚。それと同時に、天使たちの文明が潰えた「滅日」など世界の謎にも迫っていく、という感じかな。
 一読した感想は、長編の1冊目としてはまずまず順当に面白い、という感じ。物語のスタート地点がアンガスと〈姫〉の出会いあるいは旅立ちではなく、彼らが旅に出て既にある程度時間が経過している状態からだったのに一瞬戸惑いましたが、必要な情報は適宜開示されていくので、置いてきぼり感はほとんどなく。逆に、設定が明らかになっていくにつれ、自然と物語に惹きこまれていくのは作者氏の巧さなのかなーと思ったり。あと、どこか開拓期のアメリカを思わせる雰囲気が、作品世界に意外とはまっていて良かったです。
 登場人物に関しては、今のところはわりと定型通りの配置だなぁという印象だったりするのですが。それでも芯の強いアンガスと勝気ながら優しさも備えた〈姫〉、彼らにひょんなことから同行することになったジョニーや途中で挿入される過去の物語の主人公「俺」など、それぞれの魅力があったり癖があったりで好印象ではありました。

 さて、思いがけない報せに飛び出したアンガスと、「楽園」を脱するも生命の危機は続いている「俺」。2人の物語がこの先どういう展開を見せ、どういう風に繋がっていくのかが気になるところ。あとがきによれば全4巻既に書き終わられているようなので、あまり間を置かずに続刊が読めそうなのが嬉しい限りです。

 どうでもいい独り言。いくらメジャーどころの天使の名前がごろごろ出てくるからって、即座に脳内イメージが某コミックやゲームのそれに切り替わる私の脳みそはどうにかならないものか。

作品名 : 〈本の姫〉は謳う 1
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著者名 : 多崎礼
出版社 : C☆NOVELS FANTASIA(中央公論新社)
ISBN  : 978-4-12-501006-9
発行日 : 2007/10

『ばいばい、アース II 懐疑者と鍵』[冲方丁/角川文庫]

 様々な特徴を備えた種族が暮らす世界で、いかなる種族の特徴ももたない「のっぺらぼう」の少女ベルが己の由来を探す旅に出るまでの物語、第2巻。ところでこの表紙イラストはアドニス、ですよね多分……なんか、イメージと全然違うというか、どうして普通に人間型なのかものすごい疑問……。

 それはさておき、今回収録分では「剣の国」を舞台にした神楽の役者が揃う一方、「理由の少女」たるベルをも巻き込み様々な運命が絡み急転していく様が描かれています。
 今巻初登場となる王女シェリーは、クライマックスでの印象が強くてすっかり忘れてましたが、そういえば最初はこういう娘だったなーと。この純粋無垢な姫君がベルの影響を受けて、どのような選択をすることになるのか。分かっていても、その場面を読むのが楽しみになります。
 それ以外では、やはり序盤の比較的平和で穏やかな時間がしみじみと楽しかったですね。皆でなんだかんだでわいわい仲良くやってる様子がなんとも微笑ましくて。それでも拭いきれないベルの孤独と、似て異なる宿命を背負うアドニスの交流は、その先の展開を知っているとやや複雑な心境にはなりますが……それでも、この2人が惹かれあうのはある種の必然だったのだろうし、難しい。あと、心身ともに傷ついたベルと、ベネット(雌性体)の再会と別離の場面も印象的でした。

 さて、一つの悲劇をきっかけに、進む道を違えたベルとアドニス。果たして、彼らの進む道は再び交わるのか。全てを予定調和に組み込もうとする「機械仕掛けの神」とは。そして、ベルは「旅の者」となるための鍵を奏でることができるのか。物語はいよいよ佳境へと差し掛かっていきます。

作品名 : ばいばい、アース II 懐疑者と鍵
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著者名 : 冲方丁
出版社 : 角川文庫(角川書店)
ISBN  : 978-4-04-472904-2
発行日 : 2012/10/1

10月4週目の購入メモ。

『拝み屋横丁顛末記 九』[宮本福助/ZERO-SUM COMICS]【bk1boopleamazon
『ばいばい、アース2 懐疑者と鍵』[冲方丁/角川文庫]【bk1boopleamazon
『オイレンシュピーゲル参 Blue Murder』[冲方丁/角川スニーカー文庫]【bk1boopleamazon
『柳生大戦争』[荒山徹/講談社]【bk1boopleamazon
『楽昌珠』[森福都/講談社]【bk1boopleamazon
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『時砂の王』[小川一水/ハヤカワ文庫JA]【bk1boopleamazon
『スプライトシュピーゲル III いかづちの日と自由の朝』[冲方丁/富士見ファンタジア文庫]【bk1boopleamazon
『アレクシオン・サーガ 2』[五代ゆう/HJ文庫]【bk1boopleamazon

寝る前に注文だけ。週明けには届くかなー(ちなみに、ばいアス2巻だけは空港で購入済)
あと、旅行先ではいつものように火鳳燎原最新刊までゲットしてきました。