『The Book -jojo’s bizarre adventure 4th anothor day-』[乙一/集英社]

 数年前から発売すると言われ続けていた乙一氏による「ジョジョの奇妙な冒険」第4部のノベライズ。乙一作品は言うに及ばず、「ジョジョ」第4部は連載中にかなりハマって読んでいたので、迷うことなく購入。なお、数年前に雑誌にプレ版が掲載されていましたが、それとはまったく別物になってます。嗚呼、あの号買っておくんだった……。

 それはさておき、感想。事前に想像していたよりもはるかに面白かったです。オリジナルキャラを使ったストーリィはちゃんと乙一作品(黒風味)に仕上がっているのに、同時にしっかり「ジョジョ」第4部の1エピソードとしても成立していて。まさに一粒で二度美味しいという感じ。読了後に改めて本の装丁を見直して、なるほど、と思いました。
 オリジナルの登場人物たちについては、そのあまりに救われない関係が明らかになった時点で、これをどう冒頭につなげてどう決着をつけるんだろうと思っていましたが……安易にハッピーエンドともバッドエンドともいえない、救いがあるようでそうでもない、なんともいえない苦さの残る結末は、いかにも乙一氏らしいものだなぁと思いました。

 微妙に引っかかる部分(仗助の例のエピソードを紹介するところとか。あそこは、このパートは康一視点なんだと思っていたら、いきなり現実視点からになったのでものすごい違和感が)もありましたが、全体的には流石の出来というか、原作への愛情も十二分に感じられるノベライズで堪能いたしました。……ところで、億泰って原作でもあんなに格好良かったっけ(酷)

作品名 : The Book -jojo’s bizarre adventure 4th anothor day-
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著者名 : 乙一(原案:荒木飛呂彦)
出版社 : 集英社
ISBN  : 978-4-08-780476-8
発行日 : 2007/11/26 → 2012/11/20(文庫化)

『ばいばい、アースIII 爪先立ちて望みしは』[冲方丁/角川文庫]

  様々な特徴を備えた種族が暮らす世界で、いかなる種族の特徴ももたない「のっぺらぼう」の少女ベルが己の由来を探す旅に出るまでの物語、第3巻。ところで2巻に引き続いて素朴な疑問なんですが、この表紙イラストは一体誰と誰だ。ベルとアドニスか、それとも「nowhere」のスペルが使われているから飢餓同盟繋がりでシアンとドランブイか……?

 えーと、今回収録部分は、「剣の国」の民たちがそれぞれの意志と方法で「機械仕掛けの神」の支配に反旗を翻しはじめる、というのが大まかなあらすじになるでしょうか。この世界の背景、というか仕掛けも徐々に見えてきます。
 とりあえず、初登場時は純粋無垢で儚い深窓の姫君という印象だったシェリーが、意外な強さを見せてくれるのが素敵です。彼女最大の見せ場が次巻にお預けとなったのがちょっと残念ですが、あれは本当にクライマックスだったからまぁ仕方がないか。
 その他、ベルは勿論、新しい枠組みを作るために行動を始めるギネスやベネット、懊悩しながらも王としての責務を果たそうとするガフ、そしてある目的を胸に一定の距離を保ちながらもベルの傍に在ろうとするキティなど、それぞれが格好良い姿を見せてくれる一方、アドニスは……なんというか、この男は良くも悪くもヘタレだよなぁと(酷)

 さて、「剣の国」で始まった変革の兆しは「理由の少女」も巻き込んでどのような結末を迎えるのか。剣を持って相対するベルとアドニス、2人の想いと関係はどこに向かうのか。「剣の国」を舞台にした物語は、いよいよ収束へと向かっていきます。

作品名 : ばいばい、アースIII 爪先立ちて望みしは
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著者名 : 冲方丁
出版社 : 角川文庫(角川書店)
ISBN  : 978-4-04-472906-6
発行日 : 2012/10/1

『厭犬伝』[弘也英明/新潮社]

魑魅魍魎が跳梁跋扈し、人間の骸から生える「汚木」を用いて「仏」を作る風習がある世界。幼いころに母を亡くし、伯父に育てられた少年・厭太郎は、あるとき仏師の娘・犬千代に仇討ちを申し込まれ、互いの仏を決闘させる「合」を行うはめになる。

 第19回日本ファンタジーノベル大賞、大賞受賞作。ここ数年の習慣どおり、今回も購入。

 この2回ほどのファンノベ大賞は、面白いことは面白いのだけどどうも薄味というかクセのない作品が大賞を受賞するなー思っていたのですが、この作品は冒頭なかなかのはったりの効いた雰囲気で、期待値上昇。続いて主人公の厭太郎の境遇が語られ、さてこれを背景にどのような物語が展開されていくのかとワクワクしながら読み進めたら、いきなり格闘ゲーマーの話になったので唖然としました(いや、正確には格ゲーじゃないけど。でも、ノリがもうほとんど格ゲーだった)
 で、その格ゲー的な仏同士の戦い「合」の部分に筆を割きすぎたためか、選評でも指摘されているように主人公も含めた登場人物たちの描写が薄くなってしまっていて、結果的に物語としてはバランスが悪くなってしまった印象。せめて厭太郎と犬千代の2人だけでももう少し深い心理描写がされていれば、クライマックスの「合」も気分的に盛り上がったと思うんですけど……激しい仕合なのは理解できるとして、そこにちゃんと没入できずカタルシスを感じられなかったのが残念。加えて、これは面白そう、と思った設定等もあまり突っ込んだ描写はなく、雰囲気作りの小道具的な役割に終始していたのもまた残念。

 まぁなんというか、いろいろと惜しかったなーというのが正直な感想。しかし、作中に散りばめられたアイデアはなかなか面白かったと思うので、次回作には普通に期待することにします。

作品名 : 厭犬伝
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著者名 : 弘也英明
出版社 : 新潮社
ISBN  : 978-4-10-305951-6
発行日 : 2007/11

『黄金の王 白銀の王』[沢村凛/幻冬舎]

祖を同じくしながらも対立する二つの民――鳳穐(ほうしゅう)と旺廈(おうか)。 二つの民が憎み争う翠の国だったが、ある時旺廈は鳳穐に敗れ、旺廈の頭領である薫衣(くのえ)は囚われの身となる。そして、鳳穐の頭領であり翠の王ともなった?(ひづち)は薫衣に、ある話を持ちかける。捕われの身となった王と、憎みあう二つの民を総べる王。二人が思い描いた理想は、はたして実現されるのか。

 個人的偏愛率の高い日本ファンタジーノベル大賞出身の作家氏の新作。架空歴史系の作品ということで、購入。

 カバーイラストがわりとかわいい感じだったのでもっと軽い話を想像していたのですが、想像以上に重く、深かった。周囲の無理解、憎悪、侮蔑、嘲笑――自身も含めた人間の心を相手に、時には己の手を汚しながらも数え切れない葛藤を乗り越えて苦難の道を切り開き進んでいく2人の姿。一見大きな波乱もなく地味な、しかし実際はとてつもなく困難な戦いに挑んだ彼らの生涯に、圧倒されたというか。全体的に派手さには欠けるものの、静かな迫力を備えた物語でした。

 最後の、そっけないほどの一文で彼らの生涯をかけた戦いは無駄ではなかったのだと思うと胸にくるものが。しかし2人の王の、特に薫衣の成したことが本当に理解されるには、まだ長い長い時間が必要なのだろうなぁ……。

作品名 : 黄金の王 白銀の王
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著者名 : 沢村凛
出版社 : 幻冬舎 → 角川文庫(角川書店)
ISBN  : 978-4-344-01398-8 →
発行日 : 2007/10 → 2012/1/25

11月3週目の購入メモ。

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『女子大生会計士、はじめました 藤原萌実と謎のプレジデント』[山田真哉/角川文庫]【amazonbooplebk1
『神州纐纈城』[国枝史郎/河出文庫]【amazonbooplebk1
『チェーザレ―破壊の創造者 4』[惣領冬実/モーニングKCDX]【amazonbooplebk1
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『水滸伝 14』[北方謙三/集英社文庫]【amazonbooplebk1
『gift』[古川日出男/集英社文庫]【amazonbooplebk1
『厭犬伝』[弘也英明/新潮社]【amazonbooplebk1
『ブラック・ジャック・キッド』[久保寺健彦/新潮社]【amazonbooplebk1
『DクラッカーズVI 王国-The limited world-』[あざの耕平/富士見ファンタジア文庫]【amazonbooplebk1
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『私説三国志 天の華・地の風 四』[江森備/ブッキング]【amazonbooplebk1