キャンパス文庫からルルル文庫に移動して復刊された、「封殺鬼」シリーズの一編。現在ルルル文庫で刊行中の「鵺子ドリ鳴イタ」の前日譚に当たります。
若干10歳で陰陽師・神島一族の当主となった少女・桐子と使役鬼二人との出会いから絆が生まれるまでと、当主となって初めての仕事に隠された意図を暴いていく、というのがこのエピソードの主軸になるのかな。
登場人物絡みでは、やはり桐子と聖、弓生の間の距離が少しずつ縮まっていく過程が良かったです。主従関係であるにはしろ彼らのように「桐子」という存在をまっすぐ見てくれる人というのは貴重でしょうからね……桐子の置かれていた境遇を思えば、どうしても。それから、ひょんな縁で知り合った術者・早臣の動向も気になるところです。……なんだか嫌なフラグが成立しているように見えるのは気のせいだと思いたい。あと、シィの話はなんとも切なかったです……。
陰謀方面では大きな進展はなし。徐々に大きくなっていく情報の齟齬は、果たして何を意味するのか。本当の「破壊者」は誰なのか――まぁ、「鵺子ドリ~」の情報からこいつが黒幕(?)だろうと見当がつく人はいるのですが、その人が何を考えて何を望んで動いているのか。それが明かされるのだろう下巻が楽しみです。
携帯で読めるオマケ掌編は「鵺子ドリ鳴イタ」エピソード後の一幕だそうで。なんだかんだでちゃんとお友達になってる桐子と志郎の姿には、直前まで桐子の孤独の根の深さを直前まで味わっていただけに、余計に微笑ましい気分になりました。
『身代わり伯爵の挑戦』[清家未森/角川ビーンズ文庫]
庶民派少女ミレーユと、おかしな連中たちの繰り広げる王道ラブコメ、第3巻。
これまで同様のベタ&お約束展開で、とても面白かったです。特に今回は、天然バカップル(片方は自覚なし)のいちゃいちゃぶりもさることながら、セシリア王女の出番大幅増&魅力が堪能できたのが良かったです。その他、おちゃらけているようで決めるところは決める双子の兄やら娘溺愛暴走根暗パパ&筋肉大好き男前ママ、着ぐるみ王子や後宮建造計画中の王太子妃など、濃いキャラたちが繰り広げる騒動がなんとも楽しい。
一方、シリアス面。セシリア王女の抱える事情はそうくるのかーという感じ。同時にリヒャルトの背景が明らかになりつつあり……思わぬ血縁関係にはちょっと驚きました。とりあえず、権力のある家に生まれると何かと大変だよなーとしみじみ。
さて、まだ謎も残ってますがいくつかの伏線が回収され、このあたりの事情が今後どういう風に話に絡んでくるのか。普通に続きが気になるところ。勿論、ラブ方面の進展も楽しみにしています。
『エドの舞踏会 山田風太郎明治小説全集8』[山田風太郎/ちくま文庫]
今度名古屋まで舞台観にいくので、再読。海軍少佐・山本権兵衛が、ひょんなことから鹿鳴館に貴婦人を招く役を仰せつかり、大山巌夫人捨松と共に名だたる元勲・大臣の奥方たちの元を訪ねて回る中で遭遇する出来事を描いた連作短編集。
山田風太郎の明治モノが傑作ぞろいなのは言うまでもないし、いまさら私なんかが拙い感想書かなくてもなーとも思ったのですが、せっかくなので。なお、山田風太郎に関しては信者の域に軽く達する程度のファンだと自認していますので、いくらか差し引いて読んでいただければ幸いです。
山田風太郎らしく、史実と虚構のバランスが絶妙。どのエピソードも実際に起こった事件や出来事を下敷きに、膨大な知識をもって「もしかしたらそういうこともあったのかもしれない」と読者に思わせるような小説に仕立てられているので、どこまでが虚構でどこまでが史実なのかとつい考えてしまうほど。
作中には一時代を切り開いた政治家など実在の人物が多数登場してくるのですが、やはり脚光を浴びているのは章題にもなっている元勲・大臣の夫人たち。まだ女性が表舞台に登場することが難しかった時代に、内助の功を発揮する手弱女……かと思いきや、それだけでは収まらず、それぞれの境遇の中でしなやかな強さ・美しさを見せ付けながら、それぞれの人生を生きている奥様たちの姿に惚れ惚れ。そんな彼女たちを通して描かれる旦那方の、歴史の教科書で学んだそれとはまた違う人間味あふれる人物像もまた面白く。そんなこんなで表面的にはどこか滑稽さすら感じる楽しい作品集なのですが、それだけにその裏側に秘められ、時折顔を覗かせる哀切に満ちた呟きに胸を突かれることもしばしば。
収録されている中で個人的に好きなのは、伊藤博文夫人と陸奥宗光夫人のエピソード。奥様の手際に思わずお見事と喝采を送りたくなってしまいます。山県有朋夫人も見事な手際を見せてくれるのですが、彼女の場合は感嘆よりも背筋が凍る思いが……。しかし、一番印象に残るのはどれかと聞かれれば、ル・ジャンドル将軍夫人のエピソードと答えるかな。雨の中でのやり取りですでに涙目になってましたが、最後の天覧芝居での掛声で涙腺決壊しましたよ……。
物語の締めくくりは鹿鳴館。夫人方との交流を経てあることを考えた山本権兵衛がそれを実行に移すのですが、序章からの心境の変化につい笑みが浮かびます。そして、ここで語られる山本権兵衛、西郷従道、そしてピエール・ロティの言葉が、この作品集の全てを言い表しているな、と思いました。
ちなみに、書誌情報にはちくま文庫版を利用しましたが、現在絶版状態だったりします。……実はこの本所有してない(文春文庫版は持ってる)ので、なんとか復刊して欲しいんだけどなー。(というか、明治全集自体、ちくま文庫版で揃えようと年1冊ぐらいののんびりペースで購入してたところ、全部揃える前にいつの間にか絶版になっていたという笑えない話。おかげで、手元にあるちくま版全集はかなりの歯抜け状態。嗚呼、ケチらないで一気に購入しておけばよかった。←後悔先に立たず)
12月1週目の購入メモ。
まだ本が届かないので。
年賀状住所録を亀の歩みながらもちまちま入力を進めていたり、いろいろツッコミいれつつ『BASARA2英雄外伝』で遊んだり、今度観にいくからと『エドの舞踏会』(山田風太郎)を再読→そのまま他作品も再読開始してみたり。
まぁそれなりに平和な日々を過ごしてます。
……しかし、いつになったら届くんだろうな私の新刊。このままだと、今週注文する分のほうが早く届きそうだ(遠い目)