『明治波濤歌(上) 山田風太郎明治小説全集9』[山田風太郎/ちくま文庫]

 多かれ少なかれ「海の向こう側」との関わり合いという共通のテーマを持つ中編で構成された『明治波濤歌』(ちなみに上巻下巻で各3編収録) 明治物に多い連作形式でもない、ある意味珍しい作品集になっています。まぁ、各編独立した物語が楽しめるので、それはそれでお得感がある、かも。
 以下、各中編の簡単な感想。

「それからの咸臨丸」:主役はかつて咸臨丸の乗組員として渡航した吉岡艮太夫……といっても、実はこの人のこと知らないんですよね私(恥) それはさておき、新政府樹立後に官軍相手に強盗を働き資金を貯めて、死地を求めていざ函館へ、というところで誤認逮捕されてしまう主役が哀れというか間抜けというか、微妙な笑いを誘います。ともあれ、危機的な状況に追い込まれた彼が、後に投獄されてきた榎本武揚と語るうち、次第に自分の中の価値観が揺らぎはじめていくのですが……。あることを利用してまんまと牢を脱した彼の最後の決断を、立派ととるか皮肉ととるか。

「風の中の蝶」:のちに「大阪事件」として歴史に名を残す事件にそれぞれの形で関わった若者たちの群像劇、ということになるでしょうか。話が話なので、史実からは自由民権運動に絡んだ人物の登場が多め。主役格を定めるならば、北村門太郎(透谷)になるかな。随所で南方熊楠も絡んできます。あ、あと夏目君と正岡君もちょい役で登場。若者たちの恋模様や理想に燃えた行動などが絡み合い、悲劇に転じたかと思えば次には喜劇に転じる様が面白い。しかし、思わず涙も浮かんでしまう蓬の壮烈な死闘の直後に、石坂公歴をアメリカに無事渡航させようとするドタバタ劇を持ってくるのはちょっと酷いんじゃないかと思わなくもない(笑)
 終幕は各登場人物たちの最期までがさらりと語られていくのですが、それを読むうちに自然と序盤で登場人物たちが揃って笑いあっていた時間や透谷の詩を思い返し、しんみりした気分にさせてくれます。

「からゆき草紙」:主役格は樋口一葉。相場をしてみたいと借金を申し込んだというエピソードを膨らませ、かつて母が仕えた家の一人娘・美登利が人買いによって南洋に売られるのを阻止しようとする彼女の正義感(というか侠気というか)からくる奮闘が楽しい。人買い側の理論は、まぁ無茶苦茶といえばそうなんだけど、それでも理屈にはなってるのが性質が悪いよねぇと思ったり思わなかったり。

作品名 : 明治波濤歌(上) 山田風太郎明治小説全集9
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : ちくま文庫(筑摩書房)
ISBN  : 978-4-480-03349-9
発行日 : 1997/9

『後宮小説』[酒見賢一/新潮文庫]

先帝の死去に伴い、新たな帝が即位した素乾国。新皇帝のため、後宮も一新されることとなり、各地で宮女候補の募集が始まった。平凡な田舎娘の銀河は、近所の女たちの会話で聞こえた「三食昼寝付」という言葉につられて募集に応じることにする。一方、王宮では権力闘争が激しくなり、また地方では反乱が起きるなど、世の中は不安定となっていき……。

 「腹上死であった、と記載されている。」――この、なんとも人を食ったインパクトの強い一文から始まる、架空の王朝(中国風)を舞台にした物語。言わずと知れた、第1回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。この作品のレベルが高すぎたために、ファンノベ大賞は以降もレベルの高い受賞作を多数世に出しているという話もあります。……ここ数年の受賞作を見ると、どうもその神通力も怪しくなってきた感じですが。

 個人的な雑感はさておき、この作品の感想。最初が最初なのでどんな話なんだと思ってしまいますが、中身は案外真っ当な(というのもあれですが)少女の純愛&成長譚(勿論、それだけではないけど) 加えて、全編創作にも関わらず、いかにも歴史小説っぽく仕立ててあるホラ吹き具合、文章のそこかしこで顔を出す作者氏のユーモアセンスが絶妙な味で楽しませてくれます。
 銀河が絡む部分の主な舞台は後宮。当然そっち方面のあれやこれやも話に絡んでくるのですが、銀河の好奇心旺盛&快濶&天衣無縫な性格も手伝って不思議とからっとした印象が残るのがなんとも不思議。つーか、銀河と紅葉、セシャーミン、場合によっては玉遥樹も交えてのやり取りは、ある意味女子高のノリに近いものがあるなぁと思ったり思わなかったり。この他にも、銀河と角先生の哲学的な問答や、コリューンとの交流など、それぞれ面白く読めます。
 一方、王朝を脅かす内憂外患諸々の話で飛びぬけて存在感があるのは、反乱軍の軍師とも言うべき渾沌。独特の哲学に基づく彼の行動が、それゆえにあらゆる場面でトリックスターとなっていくのは滑稽というのかなんというのか。しかし、一定以上に義理や他人に縛られない自由気ままな彼の生き様は、読んでいてちょっと小気味よくもありました。身近にいたら迷惑な人だろうけど。

 悲劇とまではいかなくても大団円ではない結末なのに、その哀しさや重苦しさをほとんど感じさせず、むしろ爽やかかつ軽やかな後味が残るラストが印象的です。

作品名 : 後宮小説
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著者名 : 酒見賢一
出版社 : 新潮文庫(新潮社)
ISBN  : 978-4-10-128111-7
発行日 : 1993/4/25

禍福は糾える縄の如し。

調子が悪いので病院に行ったら、問答無用で点滴。その甲斐あって多少調子は回復したけど、何も本を持って行ってなかったしベットの寝心地悪いしで朝からなかなかに最悪な気分になる。
で、帰りに大して期待もせず古本屋に寄ってみたら、ここ数年コンプに執念を燃やしていたちくま文庫版山田風太郎明治小説全集がずらりと並んでいるのを発見。
売りに出した人に感謝の言葉を捧げつつ、いそいそと確保。ここでちょっと幸せ気分回復。
そして帰宅後、年末に注文したタイミングが悪かったのか、楽しみにしている新刊の何冊かがまだ発送メールすら届いていないことに微妙に落ち込み、不幸気分やや優勢。嗚呼、私の『ゆうなぎ』は一体何時届くんだろう(遠い目)
……まぁ、落ち込んでいても仕方がないし、今日はお気に入り本の再読に徹することにしよう。

『北宋風雲伝 15』[滝口琳々/プリンセスコミックス]

三侠五義をベースにした少女マンガ、15巻目。着々と進行中の謀反計画を巡り、登場人物それぞれが動き出しています。

主役カップル周辺はもうこの際どうでもいいとして(酷)、気になるのは謀反の行方と、某登場人物の生死かなぁ。いやだって、彼、原作では……だし、ねぇ? 準主役扱いだし、少女マンガだし、原作とは違う展開になってる部分も多々あるし、その辺は上手いこと処理するつもりなのかなぁとは思いますが……。ここでそんな甘い予想を裏切って原作どおりの結末を迎えさせたら、それはそれで感心するかも。

さて、カバー折り返しのコメントによれば、あと1冊で完結だそうで。一体どういう具合に幕を引くことになるのやら。

作品名 : 北宋風雲伝 15 【amazonbooplebk1
著者名 : 滝口琳々
出版社 : 秋田書店(プリンセスコミックス)
ISBN : 978-4-253-19390-0
発行年月 : 2007.12

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いつものことですが、なんとなくそういう気分になったので。
しかし、絵心&デザインセンスがまったくないので自作は早々に諦めフリーの配布サイトから素材を頂いてきてアップロード。
相対パスだとTOPページにしか表示されなかったので、絶対パスでアドレス指定して作業完了。