『肉屏風の密室』[森福都/光文社]【amazon ・ boople ・ bk1】
『マルゴの調停人』[木下祥/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]【amazon ・ boople ・ bk1】
『翡翠の封印』[夏目翠/中央公論新社・C☆NOVELS FANTASIA]【amazon ・ boople ・ bk1】
『BLACK LAGOON 8』[広江礼威/サンデーGXコミックス]【amazon ・ boople ・ bk1】
『人間臨終図巻(全3巻)』[山田風太郎/徳間文庫]
路傍の石が一つ水に落ちる。
無数の足が忙しげに道を通り過ぎてゆく。
映像にすればただ一秒。 ――山田風太郎 「三十四歳で死んだ人々」(『人間臨終図巻 I』p125)
「読書の夏」リスト消化、2作品目。普段は適当に興味のある人とそこからつながっている人をぱらぱら読むという超手抜な読み方をしてるので、かなり久しぶりの通読。さすがに疲れた。
内容は、題名からも一目瞭然。十六歳で死んだ八百屋お七から百二十一歳で死んだ泉重千代まで、古今東西老若男女善悪貴賤を問わず、900人を超える人間の臨終模様を、死んだ年齢順に淡々と記した作品。ちなみに第1巻は十代から五十五歳、第2巻は五十六歳から七十二歳、そして第3巻は七十三歳から百代で死んだ人々の臨終が、それぞれ収められています。
面白いというよりも、いろんな意味で興味深いというほうがしっくりくる作品。山田風太郎独特の醒めた視点・皮肉混じりのユーモアで描かれる数々の「死」。短ければ数行、長くても4ページ程度の間に凝縮された人々の人生とその迎える死の形は事故・暗殺・自殺・老衰・病死・戦死・銃殺・拷問死・絞首刑などなど千差万別ながら、それでもしかし、人間結局は誰でもどんな風にでも生きて死ぬだけだと、そんな当たり前のことを真正面から突きつけられるよう。また、感傷的な描写は極力避けたと思われる文章なのですが、意外な交友関係や歴史背景もさらりと織りこまれ、無味乾燥な事実の羅列にならず物によっては短編小説のような味わいすら感じるのが凄いなぁと思います。時折筆者の所感などが差し挟まれることで、その生死観や歴史観がうかがい知れるのも興味深いですね。
各章の冒頭には死にまつわる言葉が記されているのですが、その中でもひときわ痛烈かつ辛辣な印象が残っているのが、「九十五歳で死んだ人々」の項。
――「人間の死ぬ記録を寝ころんで読む人間」。
『アンベードカルの生涯』[ダナンジャイ・キール/光文社新書]
「ガンジージー、私には祖国がありません」
ガンジーは不意をつかれ、彼をさえぎった。
「何をいうのかね、博士。あなたには祖国があるではありませんか。円卓会議でのあなたの働き振りについての報告で、あなたが立派な愛国者であるということを私は良く知っています」
「あなたは、私に祖国があるとおっしゃいましたが、くり返していいます。私にはありません。犬や猫のようにあしらわれ、水も飲めないようなところを、どうして祖国だとか、自分の宗教だとかいえるでしょう。自尊心のある不可触民なら誰一人としてこの国を誇りに思うものはありません。(後略)」――「第十章 ガンジーとの戦い」(p135-p136)
「読書の夏」リスト消化1冊目。不可触民に生まれながらも、周囲の援助となにより自身の不屈の意志と努力で高等教育を修め、ついには独立インド初代法務大臣まで務めたアンベードカル博士の65年の生涯を丹念に辿った伝記。インド近代史、そして何より不可触民問題の一端を知ろうと思えば必携の一冊ではないかと思います。
冒頭から折に触れて描かれる、不可触民に対する有形無形の差別の数々は、もはや想像を絶するレベル。自身も動物以下の扱いを(地位と名誉が不動となった後ですら!)幾度も受けながら、それでも不可触民が「人間」として生きるという権利獲得のため、生涯に亘ってカースト制度――ひいてはインド社会そのものに闘いを挑みつづけたアンベードカルの生き様、その苛烈さと志の高さに自然と頭が下がります。
とりわけ印象に残るのが、第十章から扱われるガンディーとの激しい対立。敬虔なヒンズー教徒でありカースト制度の存続を容認している(不可触民に対する差別には反対。第5のヴァルナとして扱うべきというのがその主張)ガンディーに対し、不可触民階級としてカースト制度を憎み即時廃止を主張するアンベードカル。当然互いの主張がかみ合うはずはなく、初対面で行われた論戦を皮切りに何度も衝突を繰り返すことに。別にガンディーの偉大さに異論を唱えるつもりはありませんが、アンベードカルがもぎ取った不可触民の分離選挙に反対して「死の断食」を決行するなど、世間一般に浸透している「聖人」というイメージだけで語れる人ではないんだなぁと、人間の持つ多面性について今更ながらに思い知らされるような、そんな気分です。
読書の夏。
deltazulu様のこちらの記事で知った「読書の夏」。読書感想は一応うちのメインなわけだし、わざわざ参加するのはあれかなーと思ったりもしたのですが、いくらなんでも傾向が違いすぎるとかもろもろの理由で普段は感想を書いてないような本を短文紹介してみるのも良いかもしれないと思い直して参加することにしました。
以下、読書予定リスト。
“読書の夏。” の続きを読む
『ブラック・ラグーン シェイターネ・バーディ』[虚淵玄/小学館ガガガ文庫]
悪徳の街ロアナプラを舞台に、裏社会に属する人間や組織の繰り広げる駆け引きや荒事を描く人気コミックシリーズのノベライズ。原作が好きなので購入。
内容的には、三合会タイ支部ボスの張を標的にした暗殺未遂が発生。うっかりその片棒を担いでしまったラグーン商会は、ケジメをつけるために犯人狩りに奔走するが、なぜか事件の裏にはホテル・モスクワの影がちらついて……みたいな感じ。ちなみに時間軸は「日本編」の前ぐらい。
張大哥とバラライカの姐御が最初に予想していたより出番が多く、しかもそれぞれ格好よすぎで、原作でこの二人が特に好きな私としてはそれだけで嬉しかったですねー。ラグーン商会の面々は事件の本質には近づかず、表面的な部分で動いていた感がなきにしもあらずでそれはちょっと残念だったけど、なんというかこう、ああラグーン商会の連中だなぁと納得できる描写や行動が良かった。
一方、張大哥を狙う暗殺者3人はこれまた作品世界に溶け込んでいるというか、シリアスから変人までそろった灰汁の強い面子で。喧嘩を売ってはならない連中に喧嘩を売った彼らの最終的な末路はまぁ想像がつくにしても、どういう風な幕引きが用意されているのか、非常にわくわくしながら読みました。なかでもストーリィ的にメインだったと思われる麻薬中毒の狙撃兵は、姐御絡みなこともあって結末に至るまでの虚無感というか無常さが印象的だし、ブロガーなガンマンもただのアレな人かと思っていたら最後の〆は良かったし。で、シリアス(?)方面で印象に残ったのがこの二人なら、逆方面で印象強烈だったニンジャ。実力はシェンホアを圧倒するほどにも関わらず、その正体は……どうツッコミいれればいいものやら状態のロックや茶目っ気を発揮しまくった張大哥とのやりとりとか、大笑いしました。あの人、そのうちコミックにも出張してきたりして(笑)
原作ファンでも、コミックでは語られなかったエピソードの一つとして純粋に楽しめる内容で満足でした。