腐敗した政府と野賊との内戦によって疲弊した、ある王国。理想と正義と信念を胸に、軍務に就いた青年、アマヨク・テミズ。初任務の最中、野賊の罠に嵌った彼は、野賊の頭領の一人オーマと出会う。それが、彼の波乱の人生の始まりだった。
4年前に発売された『黄金の王 白銀の王』が話題を呼んだ、沢村氏のファンタジー作品。長く入手難であったのが、角川文庫から復刊されました。
内容としては、あらすじにもまとめたように一人の英雄の物語、ということになるでしょうか。自分の信じるもののために、愛するものと敵対することも厭わずひたすら愚直に己の意思を貫き進み続けるアマヨクを中心に、オーマをはじめアマヨクの伯父である南域将軍、野賊の一味でアマヨクとは奇妙な縁を結ぶことになるカーミラ、その他様々な人物の人生が交差し、変わらぬように見えた王国に変革をもたらすまでの過程が粛々と描き出されていきます。『黄金の王~』と同じく、困難な道を歩み続けた男の生涯は読み応えあり。文章そのものは素っ気無いぐらいなんですが、中身は熱いです。
彼が最期に報われたかどうかは受け取る人によって意見が分かれるでしょうが、少なくとも本人は終章のとある登場人物の言葉を借りれば、「なかなかいい一生を過ごした」と納得しているだろうな……と思います。
しかし、(作中でも漠然と察するところはありましたが)最後になって明らかになる彼が求め続けたもの、望んで得られなかったものは、なんというか……彼の父親が、もう少しだけ強い人であってくれればと思わずにはいられない、やるせなさが残る。