『リング』等で一世を風靡した鈴木光司氏のデビュー作にして第二回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作、角川文庫から新装版で登場。
あらすじは簡単に言ってしまえば、思わぬ運命によって引き裂かれた男女が再会を遂げるまでの物語、となるでしょうか。……再会(といってもいいのか悩むところでもある)を遂げるまでに軽く2000年は経っていたりしますが。
物語は3章構成。全ての発端となる有史以前。部族の掟を破ったがために他部族の襲撃を招き、結果として愛する女を奪われた男と、男との再会を信じ続ける女の物語が第1章「神話」。続く第2章「楽園」は18世紀、南太平洋の小島に漂着した船乗りたちが、本人たちが意図する以上にその島に暮らす一族の運命に大きく関わっていく物語。そして第3章「砂漠」は、現代のアメリカ大陸を舞台に、ネイティブアメリカンの血を引く作曲家と雑誌編集者が思わぬ冒険(というか探索というか)を経て出会うまで……と、各話をつなぐモチーフはあるけれど、それぞれある程度独立した話としても読める感じ。遺伝子のレベルにまで刻み込まれるほどの想いを軸に展開される物語は、各章ごとに少しずつ違った魅力で楽しませてくれます。個人的には「楽園」が一番好きかな。脇役のタイラーが良くも悪くもインパクト強かった。
日本ファンタジーノベル大賞(しかも初期)を受賞するぐらいですから、いかにもな「ファンタジー」とは違うかもですが、もしかしたら、いつかどこかで似たような出来事が起きていたかもしれない、とかいろいろと想像を巡らせることが出来るという意味では、立派にファンタジーだよなぁ、と思ったり思わなかったり。