今より少し未来、少し技術の進歩した世界で、人間は「今」と大して変わらず暮らしている。そんな作品5つを収録した短編集。
ちくりとする痛みを感じたりもするけれど、どの話も最終的にはどこかぬくもりを感じさせてくれる結末なので、読後感は良かったです。しかし、近未来の話とはいってもあと少しすれば手が届くんじゃないかと思う程度の未来にいる「普通」の人々や暮らし、社会の姿を描いているので、さほど突飛な要素はなく。少し先の日常話という感じなので、壮大な物語とかそういうのを期待して読むと肩透かしを食らうかも。
個人的には表題作と「カムキャット・アドベンチャー」が好きかなー。雰囲気明るめで、単純に読んでて楽しかったので。一番印象に残るのは、時期も手伝って「白鳥熱の朝に」。強毒性新型インフルエンザのパンデミック収束後、それぞれの事情で心に傷を負った二人が立ち直る……というか立ち上がって歩きだそうとするまでの話なのですが……いろいろと、ずーんときました。特に、彼女の抱えるどうしようもない事情は……仕方がない、他の誰でも可能性があったと頭では分かっていても、当事者になれば感情的に納得することは難しいんだろうなぁ……。傷を抱えてそれでも一歩踏み出そうとする彼らの未来に幸多からんことを、と祈りたくなりました。