月に一回・山風感想。直前に『妖説太閤記』も再読したのでどうしようかなーと思ったけど、やっぱり先に読んだしーということで忍法帖シリーズのこれを。内容はざっくりまとめると、武田信玄の死を巡り武田と徳川の間で繰り広げられる忍法勝負……というよりも、あの手この手で攻める徳川方に対し、必死の防衛を試みる武田方の情報攻防戦、という感じ。忍法帖の中でも史実や現存する記録との接点が特に多いのが特徴ですね。ちなみに作者自己評価は「A」。
信玄の遺言――3年間その死を隠すという目的のために用意された6人の影武者。さらに彼らを守るのは真田昌幸と彼に仕える忍者・猿飛と霧隠、さらには川中島の大失策の責を取り隠遁していた山本道鬼斎(勘助)という面々。この強固な壁を、家康より厳命を下された徳川方の忍者9人がどのように崩していくのか。その過程が見どころです。各エピソードを彩るゲストキャラもまた豪華で、それぞれ思わぬ活躍や役割でニヤリとさせてくれます(つーか、ひょっとするとメインより目立ってないか?と思うのはご愛敬)
そんな感じで、実は忍者同士の忍法勝負という意味合いはやや薄めだったりするのですが、その分出てくる忍法そのものはどれも個性的というかなんというか……まぁとにかくインパクトは強いです。「春水雛」とかこれで殺されるのはいやだあああっ!と叫びたくなるし。あと、こんなのどうやって破るんだよ!とツッコミ入れた「時よどみ」が、剣聖にさっくり打ち破られたのには吹いた。次元が違いすぎる。
両陣営の攻防は一進一退ながら、勝利条件に縛りの多い武田方がしだいに追い込まれ、さらには内部の不和から……という流れには、その後の歴史をわかっていても嘆息。一度去った流れを何とか呼び戻そうと必死に抗った人々を呑みこんでいく、歴史の流れの無情なことよ。終幕で、長篠へと馬を進める武田軍の姿は、その後の史実も相まってなんとも侘しい……。