「あちらとこちら」が混じり合う場所、空栗荘を舞台にした、少年の心の成長物語、第3巻。「時雨月の客」、「帰り花と忘れ音の時」、そして「冬燈」の三話収録。
相変わらず、派手さはないけれど優しくて、読了後にほっこりした気分になる話でした。内容としてはある意味でこれまでと同じパターンというか。過去のトラウマから何事にも無関心だった太一が、「あちら」の住人たちの起こす騒動(?)になしくずしに関わることになってしまううちに、忘れていた、あるいは見失っていた「何か」を取り戻していく……というのが2話目までの基本路線。ただ、既刊と少し違うところは、太一が完全ではないにしろ見失っていたものをいくらか取り戻していることと、空栗荘で生活する中で築いた人間関係などがあること。その下地をもとに展開された、義母の鈴子さんから届いた手作りクッキーをきっかけにした数々の出来事には、おおっと思ったりニヤニヤしたり。ニヤニヤといえば、恋する女の子な采菜の頑張りにはニヤニヤした。太一も分かっていないなりに、彼女を「特別」と感じている描写が多かったのもニヤニヤに拍車をかけてくれたし。それにしても、パニクった采菜が口にした言葉には思わず吹き出しました。○○って、それはさすがにないよ采菜ちゃん!みたいな感じで。
そして、3話目でいよいよ……ということになり、どういう具合になるかと思ったら。鈴子さんの性格を含めて、明かされた数々の「事実」があまりに予想とかけ離れていて、唖然としてしまいました。そうか、そういうひとだったのか鈴子さん……。
あとそれから、全編を通して、何気ない行動や会話の端々から、確実に前に進んでいる太一の姿がみてとれるのが、つくづく良いなぁと思いました。
あとがきによれば、次巻は春のエピソードのようで。最終巻になるというその物語では、いったいどのような出来事が待っているのか。楽しみに待ちたいと思います。