時は室町、戦国時代。武士になることを夢見て士官先を探す香具師の少年・日吉丸。彼の異相に感じるものがあった行空法師(元関白・九条稙通)は、士官先を決める手助けをしてやろうと日吉丸を伴ってたまたま上洛していた織田・上杉・武田といった有力武将のもとを訪ね歩く。ところが、武田のもとを訪ねた際に、行空の実娘で今は無国無人斎(武田信虎)の愛人となっている玉藻の悪意に満ちた「ある計画」を知らされたから事態は急転。その計画は、室町将軍家の姫君・伽具耶を捕らえ南蛮商人の慰みものとして捧げたものに、最新式の南蛮銃300挺を譲り渡そう、というもので……
今月の山風作品感想は室町ものから。『室町少年倶楽部』とどっちにしようかなぁと迷ったけど、今年になっての再読はこっちのほうが早かったので。上記のような導入で始まる、美貌の姫君を巡って、言わずと知れた後の太閤・秀吉を筆頭に信長・謙信・信玄、さらに松永弾正や山本勘助や明智光秀や千利休、上泉信綱と塚原卜伝までが一堂に会して繰り広げるドタバタ劇。作者自己評価は「A」。
数ある山風の作品の中でも、トップクラスの明るさを誇る作品、というのが特徴かな。多少は性的なあれこれも盛り込まれているけれど、さほど生々しくないので、わりとさっくり読める。なんというか、主に玉藻が見せるどろっとした情念を押しのける、からっとした愛嬌がある作品。
伽具耶に恨みを持つ玉藻の悪意から始まった姫君争奪戦が、案外お転婆&天衣無縫な性格の伽具耶の挙動も手伝って、思わぬ方向に転がっていく過程が楽しいのは勿論ですが、それに加えてさらりと差し挟まれる小ネタがまた楽しく、読んでてニヤニヤ。登場人物については、「山風先生がデレた!」と驚愕してしまった日吉丸(秀吉)の性格設定をはじめ、それぞれ格好良かったり得体の知れなさを感じさせながらもどこか抜けていたりして憎めないような設定になってるのが良いなぁと。あと飯綱のアジャリがかわいい。
その他では、玉藻の繰り出す、作中唯一の妖術がインパクト大でした。……えぇと、あいにくその威力は想像しかねますが、彼女の妖術の前に勇猛な武将たちがなすすべもなく悶絶する姿には少なからず気の毒なようななんとも、な気分に……(笑)
まぁ正直、山風作品にしては無難にあっさりまとまりすぎているという印象がなくもないけれど、それでも一見無茶苦茶な設定ながら、押さえる史実はきちんと押さえて物語をまとめ上げるその手腕は素直に素晴らしいと思うし。読後感も悪くなく、最後まで楽しめる作品です。