吸血鬼と人間の共存地帯『特区』を舞台にした吸血鬼と人間たちの物語、「BBB」シリーズ短編集第6巻。短編集はこれが最終巻になるとのこと。
短編集といいつつ、今回は収録されている雑誌連載分7話のうち6話までが一つの物語になっていたのですが、この話がとても素敵でした。「月匠ゴーバン」の血統に連なる古血で、アリスとも旧知の仲だという女性・エリーゼ。何やら事情がある様子でしばらくの間だけミミコの世話になりたいという彼女に対し、一族の禁を破ったとして「老牙ニザリ」の暗殺者たちが差し向けられてきて……という展開。エリーゼの物語でありながら、あとがきでも語られているように以前にも一度登場した「老牙ニザリ」のキリマの物語でもあり、さらには「吸血鬼と人間の恋」の一つの形を描いた物語でもありと、なんとも美味しい構成でした。あのプロポーズは泣ける……。で、事態が何とか片付いたあと、インターミッションで意外なコンビが生まれましたが、この二人は本編には登場しない、かなぁ流石に。でも、「乙女」の演説を聞いた二人がそれぞれどんな想いを抱いたか、そして激変を続ける月下の世界でどう歩んでいくのか、想像するだけでも面白いですね。
最後の連載収録分となる「満月の夜に」はオールスターでのお月見話でしたが、これもまた良かった。何気ない話なんだけど、じんわりと来るものがあります。本編とインターミッションそれぞれの最後の一文が、とても切ない。
書下ろしの過去編「聖域の嵐」は、これまでの過去編が香港へ至る過程をまっすぐ描いていたのに対して、やや変化球というか。カーサの退屈しのぎの悪戯からとんでもない騒動に!というコメディでした。とりあえず、ジローとカーサの惨状や、アリスの機嫌を取ろうと右往左往する面々に大笑いしました。しかし、最後に明かされたアリスの真意は、また切ないものが……このころには、彼女はただの経験則だけではなく、何らかの予兆を感じ取っていたのかな……。
さて、次はいよいよ本編。いよいよ語られる香港での物語、そして特区奪還の戦いがどうなっていくのか。発売が待ち遠しい限りです。