一世を風靡した山田風太郎忍法帖シリーズ、記念すべき第1作目。50年も前の作品にもかかわらず今でも色褪せない面白さで、作者自己評価「A」も納得の傑作。
ざっくりしたあらすじは、徳川幕府第3代将軍を孫の竹千代・国千代のどちらにすべきか決めかねた家康は、長年憎み合っているという甲賀・伊賀の忍者一族からそれぞれ精鋭10名を選んで相争わせ、勝ち残った陣営が旗印としていたほうを次代将軍にする、と命を下す。不戦の約定を解かれた甲賀・伊賀の忍者たちは、その目的も知らぬまま血で血を洗う戦いを繰り広げていく、というもの。
甲賀・伊賀の宿怨、異能者たちの凄惨な戦い、その狭間で浮かび上がる個々人の感情などなど。まさにシンプル・イズ・ベストというべきか。無駄のない構成に加えて、以降の忍法帖でも継承されている諸々の要素が凝縮されていて、ページ数がさほどあるわけでもないのにその読みごたえは並の本では追いつかないんじゃないかというほど。
それぞれ超絶の異能を誇る忍者同士の戦いは、正々堂々正面から討ち果たすよりも、騙し討ち上等というと語弊はあるけどあれこれ策を巡らし搦め手から相手を討ちとっていくというのが大半ということもあって、単純な戦闘能力の優劣で勝敗が決まらないので最後まで先の読めない面白さがあります。戦闘能力は特筆するほど優れているわけではないだろうはず(多分)の人がアシスト含めると最大の功労者だったりするし、一方で最強の能力を持つ人がその切り札を封じられて最終盤まで無能力と化したりするし。そういう相性というか、組み合わせの妙がまた格別の面白さを演出してくれています。
選ばれた者たちが次々に斃れてゆき、最後に対峙することになるのは互いに想い合う男女二人。その哀しい戦いの行く末は、彼らなりのせめてもの意趣返しだったのでしょうか。無情なまでにあっさりと幕を下ろす物語は、それ故になんともいえない哀愁・余韻が残ります。
ちなみに、せがわまさき氏によるコミック版(『バジリスク 甲賀忍法帖』全5巻:文庫版全3巻[講談社刊])及びコミック版を下敷きにしたアニメ版(OP・ED曲も内容・雰囲気ともに良い)は、アレンジ部分を含めてコアな山風ファンからもおおむね好評価を受けています(私の場合、丈助VS陣五郎はなるほどそう描くか!と感動した。あと兄様が原作とはまた一味違った素敵なキャラになってるのもぐー) それぞれの差異を楽しむのも面白いと思いますので、興味のある方は是非。