大岡越前の娘・霞が、父親との口論をきっかけに「姫君お竜」と名乗って小伝馬町の女牢に潜入。既に死罪が申し渡されている6人の女囚に接触し、彼女たちに掛けられた嫌疑を晴らしていくという、痛快捕物小説。ちなみに作者自己評価は「C」。……いやだから、このレベルでCって(以下省略)
奉行所で詮議も行われてそれぞれもっともらしく決着している6つの事件。しかし、霞=姫君お竜はまだ探りきれていない事情があるのでは、と女囚たちから直接話を聞いては疑問や矛盾点を見つけだし、事件の真相を暴いていく、というのが各短編の基本構成。トリックはあまり凝ったものではありませんが、抜群の巧さを誇る話の組み立て方に自然と惹きこまれてしまいます。もちろん、作中で語られる女たちを絡めとり罪人に落とした周到な仕掛けが解体されていく過程は、どれもが標準以上の面白さ。加えて、物語の主人公たる霞の天真爛漫な性格や八面六臂の活躍、そして時折顔を出す乙女な表情が物語を盛り上げるのに一役(以上)かってます。
また、単なる短編集ではなく、作者お得意の連鎖式でもあるこの作品。一見バラバラに見える6つの事件の背後に別の思惑が見え隠れすることや、各々の事件にある一つの共通点があることは割と早い段階で判明するのですが、それらがどういう意味を持っているのかは謎のままで話が進んでいき。終盤に至って、その共通点の謎解きから世間を騒がせた大事件へと話が繋がっていったときには、なるほどそうくるかと思わず膝を叩きました。
全ての謎が白日のもとに晒されたのちに用意された、霞が悪人たちに天誅を下す短くも熾烈・華麗な大立ち回りは爽快のひとこと。そして迎える終幕はなんとも微笑ましさを感じさせるハッピーエンドと、最後まで楽しめる一冊です。
ところでこの作品、現在『花かんざし捕物帖』というタイトルでコミック化進行中。コミック版はおおむね原作に忠実に進んでいるのですが、ある一点に関してはアレンジが加えられています。果たしてこのアレンジが、原作の「あの場面」でどういう効果をもたらすのか。楽しみなような怖いような、ちょっと微妙なところです。