吸血鬼と人間の共存地帯『特区』と、そこに住まう吸血鬼と人間たちの物語、「BBB」シリーズ長編第9巻。
前半は、8巻でのミミコの声を受けて世界中に広がった波紋と「乙女」として一杯一杯になりながらも「頑張る」ミミコの描写。人間社会のバッシングについては、具体的な描写がなかったのが救いか。一方の吸血鬼社会では、ミミコの言葉に魅力を感じつつもあと一歩踏み出すことを躊躇っている血族たちの描写にもどかしさを抑えられませんでしたねー。そして、ミミコは様々な重圧の中で彼女の戦いを頑張っているのですが、ヒバリが「殉教者のよう」と評したようになんともいえない痛ましさを覚えてしまいました。それだけに、アンヌとの会話はしみじみと良かったなぁ。何度も悩み自分を見失いながらも、本来の美質を損なわずに成長していく彼女は実に魅力的です。そのほかの登場人物たちの描写も、これまで彼らが過ごしてきた日々を思うと感慨深いものがあります。サユカの急速な成長も、説得力があって良かったなー。彼女に絡んではセイにも地味に見せ場があって実に良い。
そして、ミミコを九龍化せんとシンガポールに乗り込んできたカーサたちの行動が始まってからの流れがまた凄かった。とりあえず、尾根崎会長が男前すぎ。あと、今回のナブロの描写はいい意味で意外でした。もっと直感的な人なのかと思ってたよ……。そして、今回の話を語る上で避けて通れないアンヌvsカーサの因縁の対決。かつての血族の長を前にしたカーサの抑えられない動揺、言動が無性に哀しかった。そして、アンヌがカーサに向けた言葉の数々に、実はとてつもなく分かりにくかっただけで三姉妹はカーサを血族としてそれなりに認めていて、なおかつ旧弊を打ち破ることを期待してたりしたんじゃないかとちょっと思った(夢見すぎですかねぇ)
からくもカンパニーが危機を乗り切ったあとで始まった、吸血鬼たちの会議は、いろんな意味で想像していた以上にスケールの大きなことに。マーハの宣言に粛然としたり、意外な人の生存に嬉しくなったりしましたが、やはり一番の見どころはジロー。ここにきてヒーローの面目躍如というか。「聞け!」のあとの流れには、なんか泣きそうになりました……。
さて、いよいよ本格的に始まるのだろう特区奪還の動きも気になるところですが、次巻ではまず香港での出来事が語られるとのこと。果たして彼の地で何が起こり、どんな因縁が生じたのか。今回名前が出た「リズ」は、その時にどのような役割を担った人だったのか。今から語られるのが楽しみで仕方がないですね。