第12回歴史群像大賞最優秀賞作品。昨年あたりに微妙に話題になった『僕僕先生』作者氏による、朱温、のちに唐から禅譲(限りなく簒奪に近い)を受け後梁を建国する朱全忠の若き日の物語。
時代が時代なので突き詰めれば相当に血なまぐさくなるし、また作中でも実際に悲惨な出来事もいろいろ描写されているのですが、比較的さらりと読めてしまいました。……こういうあっさり風味の描写が作者氏の持ち味なのかもしれませんし、『僕僕先生』のようなほのぼの系の話ではそれもしっくりきましたが、こういう乱世を扱った話になるとちょっと好みが分かれるかも。少なくとも私は、もっと濃いほうが好みだったというか、全体的にちょっと物足りなさを感じてしまいました。あ、でも?勛の乱で黒鴉軍がちゃんと登場し、その凶悪無比な戦闘力を発揮してくれたのには内心拍手。これで李克用との運命の邂逅があれば(自分の趣味的に)完璧だったのに。
自分の大切なものを守るため、あるいは苦境から救うために努力と実績を重ねていく朱温と、そんな彼のもとに集う個性豊かな人材の描写は、王道というかベタというか迷うところですが、それでもなかなか魅力的に映りました。その一方で、朱温が本当に愛し守りたいと願っていた人たちがあっけなく失われていく様は、何ともやりきれなかったですね。特に、おそらくこの後に彼の進む道を決定づける、その最後のひと押しとなったあの人が……。
まぁともあれ、普通に読みやすかったし面白かったです。この物語の先を描くのは(いろんな意味で)難しいだろうなぁと思いますが、今度はまた別の人物にスポットを当てた話を書いてくれると嬉しいかも(微妙にマイナーなためかあんまりこの時代を扱った小説って見かけないんですよね……) 李克用とか周徳威とかあとそれから馮道とか(←我ながらミーハー)