山田風太郎明治小説全集6巻目。5巻から続く表題作「地の果ての獄」後編他、「斬奸状は馬車に乗って」、「東京南町奉行」、「首の座」、「切腹禁止令」、「おれは不知火」の5作品を収録。
舞台は樺戸から空知集治監に移り、有馬も必然的にそこに収監されている囚人たちの事情に接することに。樺戸よりも政治犯・思想犯が多いというだけあって、当然そういう向きの話も少なからず話の口に上るのですが、特に秩父関係の絡みが多かったかな。……もともと明治ものは「敗者の物語」あるいは「英雄になれなかった人々の物語」という側面を持つ作品が多いですが、それにしてもなんとなくやるせなくなります。
そんなこんなでこちらでもいくつか事件が持ち上がる中、とある事情で空知に滞在していた岩村県令の陰謀によって投獄されてしまった原教誨師。明日にも処刑されてしまう(こういう無茶がまかり通るところが、なんというか、時代だよなぁ……としみじみ思う)彼を救うため、有馬と町医者・独休庵らが「援軍」を呼ぶために北海道の大雪原で大胆無謀な作戦を決行し、なんとか到着した樺戸では西部劇さながらの決闘まで起きて……と、このあたりはまさに怒涛の展開。で、再び空知に戻ろうとしたところでまた問題が発生し、さてこれはどう乗り切るのかと思ったら……それはありですかー!と思いっきりツッコミを入れたくなる解決法が用意されていて、驚くやら呆れるやら。いや、確かにずっと伏線は張ってあったけど……まぁでも、結局は山風だしなぁと何となく納得してしまったような(苦笑) えーと、まぁとにかく終盤の「仕返し」はニヤリとできるし、登場人物同士の余韻の残る別れや有馬の性格も手伝って、読後感は悪くない一作です。
その他収録されている作品は、短編ながらも読み応え抜群。どの作品も、世間や人間そのものの不合理さをときに滑稽にしかし鋭く描きだしたあとに待ちかまえている、皮肉なオチがなんとも効果的。個人的には、「東京南町奉行」が特に好きですねー。明治となり「東京」となった江戸に戻ったある老人が主役(名前は最後のほうまで伏せられているけど、分かる人なら最初のヒントで分かる) 旧時代を懐かしみ新時代を嘆く頑固な老人を通して描かれる、時代の変化(時流に適応できた、あるいは適応できなかった人々の姿を含めた)が実に巧いと思うのです。最後の彼の行動は、一見矛盾しているようで矛盾していない。しかし、それがもたらした結末は……やっぱり、皮肉としか言いようがないですよね……。