ブルゴーニュの若き騎士ロマネは、他国で醸造された上質のワインによって窮地に追いやられた故郷のワイン産業の巻き返しを図るため、極上のワインを生み出す葡萄株の入手を命じられる。第4次十字軍に帯同し、中東の地に足を踏み入れたロマネと仲間たちは使命を果たすことができるのか。
第18回日本ファンタジーノベル大賞の最終選考作。候補に挙がったときからどんな話か気になっていたものの、惜しくも受賞を逃したために十中八九お蔵入りだろうなぁと残念に思っていただけに、こうして出版されたのは嬉しい誤算。
読んだ感想としては、最終選考に残っただけあって、第18回受賞作に勝るとも劣らない印象。ただ、主人公たちが求めるものこそ多少風変わりではあるものの、話の本筋は良く言えば手堅い、悪く言えばよくある冒険譚という感じで、読んでいる最中は楽しいのだけれど作品そのものの吸引力は若干弱いかも、とは思いましたが。いや、最近のファンノベ大賞はそういう作品多いですけどね。過去の受賞作を思うと、どうしてももっと個性的な作品を!と望んでしまうのですよ。
あと、イスラーム関係で、ちょっとその人は年代が違いませんか、という人が目に付いたのが残念だったかな。いやまぁ、私が知らないだけで実際にそういう人がいたのかもしれないし、そもそもファンタジーなんだからモデルにしただけというのもありなんだけど。でもやっぱり、超有名な名前を使われると、あれ?と首をひねってしまうというか……(←イスラーム史専攻だったからかどうにもこだわってしまう人)
そんな個人的なこだわりから気になる箇所もあるにはありましたが、全体的には話のテンポや情景の描写も悪くないし、ホラの吹き具合や小ネタの扱い方はなかなか好みで、最後まで楽しんで読みました。普段あまりアルコール類を飲まない人間なのに(友人と出掛けたときにちょっと飲む程度)、読み進めるうちになんとなく美味しいワインが飲みたいような気分になったのにはちょっと困りましたけどね(笑)