21世紀初頭の月面基地。科学者のカリによって違法プログラムから生み出された人工知性体のエージェントは、成り行きから自律型ヒューマノイドロボットに制御ソフトとして搭載されることになった。このロボットは「ドーン(夜明け)」と命名され、代わり映えのしなかった月面基地に様々な変化をもたらす。そんな生活の中、ドーンは自分のボディを開発したエンジニアのJ・Jに特別な感情を抱いていくのだが……
しばらく前にbooklines.net様や鍵の壊れた部屋で見る夢様にてEDGEシリーズが好評だったのに長年ファンをやってる人間として喜ぶ一方、「ああ、今の時代ならこれもきっと男性読者もそれなりに確保できて、続編発売も夢の話ではないだろうに……」と思わず遠い目をしてしまったとみなが貴和さんのデビュー作。私が続きを読みたいので(我侭)、少しでも可能性を向上させるためWebの片隅でぼそぼそ簡単に感想を呟いてみる。
真面目なSF読みの人から見ればいろいろ問題もあるのかもしれませんが、あいにくそちら方面には疎いのでなんとも。ですが、前半のあらすじは上に書いた通りなので、人工知性体らぶな人々には設定だけでもかなり美味しいのではないかと思うんですがどうでしょう(←聞くな)
内容の感想としては、やはりその時々の状態や周囲の人々との接触で次第に変化していくドーンのソフトウェア――心の描写が巧み。これが書ける人だからEDGEが書けるのか、EDGEが書ける人だからこれが書けるのか、という感じ。そういうわけで、中盤まではドーンが段々「人間らしく」変わっていく様を普通に楽しんでいたのですが。
しかし。物語は中盤以降あまりにもあまりな展開に突入。確かに1章の時点で思わせぶりな文章もあったけど、まさかこういう事態になるとは思っていなかったため、初読時は絶句するしかなく、終盤のドーンの姿はやるせなくて仕方がありませんでした。物語の締めくくりとなる別れの場面が、また……。
確か活字倶楽部のインタビューで、「喪失をそのまま取り戻すのではなく、そこから新たに別のものを獲得していく物語を書きたい」というようなことをおっしゃっていたと記憶しているのですが、それでいうならドーンはまだ喪失を経験したばかり。そこから先の物語も是非読みたいと思うのですが……絶版の壁は厚いので、まずは復刊してください講談社様(祈)