『夜は短し歩けよ乙女』で一躍メジャーになった感のある森見氏の新作は、古典作品の舞台を現代京都に設定したリミックス作品集。収録されているのは表題作「走れメロス」(太宰治)の他、「山月記」(中島敦)「藪の中」(芥川龍之介)「桜の森の満開の下」(坂口安吾)「百物語」(森鴎外)。うち、原典未読だったのは「百物語」。既読ながらおおよその流れとか雰囲気ぐらいしか覚えてないのが「藪の中」と「走れメロス」、それから「桜の森の満開の下」……って、ほとんど全部だし。なんか駄目駄目かもしれない、と一瞬軽く凹んだ。
えーと、それはさておき。どの作品も原典の要素を上手く生かしつつきちんと森見流小説に仕立てあげられていて、なかなか面白く読めました。いつもの森見節に一番近いのは表題作の「走れメロス」。端的に言えば捻くれ者同士の友情を描いた話なのですが……なんつーかもう、原典を鼻で笑うが如くな逆転の発想&展開に笑いが止まりませんでした。何気に『夜は短し~』とのリンクを感じさせる部分もあり。
逆に、個人的に微妙だったのは「山月記」と「桜の森の満開の下」。いや、勿論両作品ともそれぞれ上手い具合に翻案してあって面白かったのですが、「山月記」は原典が好きすぎるためかどうしても物足りなさが残り、「桜の森の~」は、原典で示された美の幻想性と狂気のもたらす魅力までに至らなかったのが残念だなぁ、と。
とはいえ、総合的には笑いあり切なさあり、いろんな味付けの短編が楽しめて満足でした。