3週連続刊行の「マルドゥック・ヴェロシティ」、最終巻。
クリストファーの誘拐から始まった悲劇は止まることなく加速。敵も味方も一人ずつその数を減らしていく内、肥大していく虚無。敵の周到な罠に絡めとられた末の、最後に残った仲間(あるいは良心)を守るための選択。そして、最期に辿りついた爆心地(グラウンド・ゼロ)――どれもこれもが凄絶の一言に尽きます。今「スクランブル」を読み返したら、きっと彼の言動・行動の一つ一つに対して全く印象が変わってしまってるんだろうなぁ。
ボイルドの失墜だけでなく、09のメンバー皆が個性的かつ魅力的だっただけに、その最期には予想以上に打ちのめされてしまいました。特にやるせなかったのはオセロット。SFマガジン掲載時の紹介編からは、もう少し違った経緯であの状況に追い込まれるんだろうと思っていたのですが……前後の描写と合わせて、とにかく悲痛(そういえば、オセロットの最期だけでなく紹介編とは変わってる部分も結構ありそうですね。シザースは根本的な設定そのものが変わってそうな気が) あと、ウィスパーの「SHOOT」はイースターの行動とあわせて泣けました。一方、敵役に関してはちょっと不満が。いや、その誕生背景が明かされたことでカトル・カールたちにすら同情的な気持ちを抱けたのに、「スクランブル」に引き続いてのオクトーバー一族のグダグダぶりはどうにかならなかったのかと。
さて、「スクランブル」の単なる前日譚に止まらず、単品としても傑作に仕上がった「ヴェロシティ」。これを読み終わって望んでしまうのは、やはり「スクランブル」以後の話ですね。東京の方で開催されたサイン会でちらりと構想は語られたそうですが、バロットと「彼女」が将来出会うことがあるならそこからどのような物語が生み出されるのか。いつの日か、読めることを期待しています。