新創刊の時代小説専門誌。若手作家を集め、時代小説の新規読者層として若者層の取り込みを狙った雑誌のようですねー。
好きな作家が多かった(つーか、これであと宇月原氏が入ってれば個人的には完璧な布陣だった)ので、ちょっと購入してみました。
それなりの値段ですが、個人的にはトップバッターの作品だけでもとが取れるぐらい大笑い……もとい楽しめたので無問題。
以下、小説作品個別の感想を簡単に。
『柳生大戦争』:荒山徹
この人の作品を新創刊のトップに持ってきた講談社の人は、どこかから変な電波でも受けたんじゃないかと思います(真顔で失礼なこと言うな)
内容的には、舞台こそ鎌倉時代になっているけど、いつものように柳生と朝鮮への愛が間違った方向に暴走しまくってて、編集者は止めなくていいのか……と不思議になってくるというか、そんな感じ。とにかく、満遍なく狂ってて大変面白かったです(褒めてますから、念のため)
しかも、今回は導入として過去編だったらしいというのが最後になって判明。毎度おなじみの人も登場したことですし、次回以降はさらに狂った展開になっていくんだろうなーと期待しております。
『雨の離れ山 影十手活殺帖』:宮本昌孝
数年前に発売された連作短編集の新作ですね。……つーか、こうやって新作掲載するってことは復刊予定があると期待していいのですか講談社さん。
掲載されていた作品の中では、一番真っ当な時代小説だった印象。(荒山氏のはそもそも時代小説じゃなくて伝奇バカ小説なので別格扱いにしておくにしても、他のも変化球が多かった) しかし、あくまで個人の好みではありますが今回に関しては東慶寺に駆け込んできた女性は邪魔だった……。いや、単体で読めばそちらの話も十分面白かったのですが、普通に紀乃が攫われて和三郎が血相を変えて探索に乗り出すってことでいいんじゃないかなー、と。
『山彦ハヤテ 雪虫』:米村圭伍
「冷飯伝」や「姫君伝」の作者さん。はぐれ狼の「尾ナシ」と共にお留め山に隠れ住む天涯孤独の少年ハヤテが、倒れていた侍を拾ったことから始まるささやかな交流が描かれます。
ですます調の文体は少し苦手なんですが、さすがに上手いし良作。別れの言葉の代わりに山に響きわたる童歌に、思わず涙。
『楽昌珠』:森福都
他の執筆陣が日本を舞台にした作品の中、この方は中国は唐代を舞台にした志怪+公案小説。いつものジャンルといえばそうだし、それが悪いとは言いませんが、一瞬「お、初の日本モノか?」と期待しただけに微妙にガッカリ。
話としては、二郎、七娘、小妹の幼馴染3人が不可思議な出来事に導かれて山奥の仙境にて再会。いろいろと語り合ううちに眠りに誘われ……ふと気がつくと、二郎は「別の世界の自分」になっていた、というもの。一応、メインは「夢の世界」の方になるのかな。武則天に仕える官吏の一人である蘇応祥(二郎)が巻き込まれた宮中の実力者への復讐劇。まぁ、いつもの雰囲気の話なので安定して楽しめました。
で、最後(了)になってるけど続くんですよね、これ? そうじゃないと、あちらの3人組の話はどうなるんだと……。
『南大門の墨壺』:岩井三四二
この作家さんの作品はこれまでなんとなく縁がなく、これが初読み。東大寺再建に関わる番匠の青年の成長物語になるんでしょうか。この1話を読んだ限りだと、主人公のあまりの至らなさにかなり辟易したのですが。
『ちよこれいと甘し』:畠中恵
「しゃばげ」シリーズ(新潮社)が大人気の畠中さん、今回は文明開化の明治を舞台に洋菓子職人を志す青年がひょんなことから巻き込まれた騒動を描いた作品。
うん、まぁ、面白かったです。とある登場人物には一発でいいから殴らせろと思う程度にムカっ腹が立ったりしましたが。
……しかし私、この人の作品はそれなりに面白いと思えても何故か「好き」にはならないんだよなぁ。文章があわないんでしょうかね。