『EDGE』[とみなが貴和/講談社文庫]

 先月ホワイトハートにてシリーズ全5巻が完結した「EDGE」シリーズ、満を持してというべきか講談社文庫で新装版が発売。よく考えたら1巻と2巻は感想を書いてなかったし、せっかくの機会なので宣伝を兼ねて。
 ちなみにこのシリーズ、主人公である心理捜査官・大滝錬摩とその相棒で尋常でないレベルの超能力者・藤崎宗一郎(但し、過去の怪我の後遺症で記憶を全て失っているのは勿論、精神年齢も大幅に退行。1巻時点では幼児並)の関係の変化などはあるものの、話そのものは1話完結形式なので、とりあえずこの巻を読んであうあわないを判断されるのもいいのではないかと。

 さて、記念すべきシリーズ1巻目。この話で錬摩が追うのは、マスコミによって「黄昏の爆弾魔(ラグナロク・ボマー)」の名が与えられた犯人。その呼び名が示すとおり、黄昏時に東京タワーや都庁などの高層建築物を狙った連続爆破事件を引き起こすこの犯人。FBI仕込のプロファイリングを駆使して犯人の姿に迫っていく錬摩だが、捜査中の偶然から思わぬ事態が引き起こされ……という展開。改めて読み返すと、事件の規模としてはこの「黄昏の爆弾魔」事件が一番大きかったのだなーと、なんとなくしみじみ。
 このシリーズ最大魅力が、犯人側の心理描写。そもそもが『羊たちの沈黙』に着想を得た作品であるためか、これがとにかく秀逸なのです。今回の事件を引き起こした「黄昏の爆弾魔」、彼は特筆するほど異常な性癖の持ち主なわけでもなければ悲惨な人生を歩いてきたわけでもない、ある意味どこにでもいる普通の人。しかし、日々の鬱屈から精神の歪さが増大していった結果、境界線を踏み外してしまった、本当にただそれだけのことなのだと、彼の視点から描かれる日常描写を読むにつれて深く納得してしまうというか。彼の心とそこに巣食っている狂気にこちらまで同調させられていく、そんな錯覚を覚えてしまうなほど丹念な描写には息苦しさすら覚えてしまいます。そして、そこまで彼の心理を理解させられてしまうからこそ、全てが終わったあとの錬摩との会話で彼が洩らした一連の言葉に、なんともいえないやりきれなさと哀しさを覚えてしまうのですよねー……。

 解説によれば、既に2巻も2007年1月に発売が予定されているそうで。まずは順調に5巻まで発売される事を祈ります。……そして、『セレーネ・セイレーン』の続編かもしくは完全新作が3年以内には読めますようにとドサクサ紛れに祈っておきます。

作品名 : EDGE
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著者名 : とみなが貴和
出版社 : 講談社文庫(講談社)
ISBN  : 978-4-06-275537-5
発行日 : 2006/10/14

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