『白銀の墟 玄の月 十二国記(全4巻)』[小野不由美/新潮文庫]

18年ぶりに発売の、十二国記長編。戴国で起こった変事について、その結末までがついに語られました。

なにはともあれ完結してよかったとしみじみ思いつつ、登場人物中心に思い浮かんだ感想。
戴国主従がどっちもそれぞれ強かった。特に泰麒は悲しくなるほどに強かったな……簒奪者のもとに直接乗り込んで「麒麟は慈悲の生き物である」という常識を利用して周囲と駆け引きするぐらいならまだしも、最終的にその本性に背くことまで自身の手でやってしまうとは、さすがに思わなかった。彼の強さ特異さはあの世界の人達からすれば「黒麒だから」になるのかもしれないけれど、たしかにそれもあるのかもしれないけれどそれだけじゃなくて、蓬莱で過ごした時間、自らの存在によって引き起こされた惨劇を経ての強さなんだというのがなんとも言えない。これまで成長した泰麒の内面はあまり触れてこられなかった(と思う)けれど、3巻からは彼のパートが増えて、敵の目を欺くために無理やり叩頭するときに岩木の存在を思い出したりとか、折に触れて蓬莱での惨禍が彼の心に残した爪痕を感じるのが読者的には重くて重くて。ただ、その中で広瀬の存在はたしかに彼の支えとなりえていたのだなあとはっきり示されたのが個人的にはとても嬉しかったです。広瀬自身が知ることはなく、仮に知ったとしてなんの慰めにも救いになるものではないとしても、彼らがあの場所で結んだ関係が残したものはあったんだ、と。
一方、驍宗様。2巻で亡くなったそれらしき武将は十中八九ミスリードだと思っていたので命の心配はしていませんでしたし、そもそも個人的に予想していた最悪の状態よりはマシな状況だったとはいえ(いや、人豚状態もありえると思ってたから……)、普通に考えれば「詰んでる」としか言えない状態で生き延びて乏しい物資でできるだけのことをやっていたとか、この人も大概体力面精神面とも鋼以上に強かった。今更ながらよく似た主従だな、と実感。
阿選については、「嫉妬ではない」と本人は思っていたし、確かに嫉妬というのは似つかわしくないのかもしれない。驍宗と阿選、合わせ鏡のようで互いの目に映っている姿には少なからず歪みがあるというか、よく似ているけれど決定的に違うというか。かつて図南の翼で利広が語っていた「理屈を踏み越えられる」器か否か、その小さいようで大きな違いが、彼の心を損ねてしまったんだろうなあ。しかし、彼の麾下たちから寄せられていた信頼をみると、どこかのタイミングで何かが違っていれば、こんなことにはならなかったのかもしれないと思えるのが少しやるせない。
李斎は失ったものが多すぎたけれど、これまでの苦難が報われたのは多少の慰め。
その他、今回の話で登場した人々はキャラが立っていた人でも状況によってはさっくり退場したりしたのが地味に辛かった。去思は生き延びてくれてよかったよほんと……。阿選の朝の官吏や武官たち、2巻までの段階では救えねえなと思ってたけど、3巻以降は各々変化があったりして評価が変わる人も。そんな中、張運は徹底的に自己保身に徹しているのが逆に面白かった(酷)
あと、いまひとつ理解が追いつかないのが琅燦。どこからどこまでが彼女の思惑だったのか、そもそもその真意がどこにあるのかが、今出揃ってる情報だけでは図りきれないんだよなー。そもそも、阿選は彼女に唆された、最後の一歩を踏み出す後押しをされたと認識しているけれど、彼女からすれば少なくともはじめのうちに諸々の話をしたのは普通に雑談の範囲だった可能性もゼロではないし……うーん、もう少しこのあたりは情報がほしい。

ともあれ、長く続いた苦難の時間がようやく終りを迎えた戴国。これから各国の援助を受けつつ再興していくのだろうその様子を、来年発売予定という短編集でわずかでも見ることができればいいな、と思います。

作品名 : 白銀の墟 玄の月(四)十二国記
    【 amazon , honto
著者名 : 小野不由美
出版社 : 新潮文庫(新潮社)
ISBN  : 978-4-10-124065-7
発行日 : 2019/11/9

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