『魔界転生(下) 山田風太郎忍法帖7』[山田風太郎/講談社文庫]

 忍法「魔界転生」により魔人として蘇った剣豪たちと、本人も詳細は知らぬまま事態に巻き込まれた柳生十兵衛の繰り広げる死闘の数々が描かれる「魔界転生」、後編。

下巻での見どころはなんといっても十兵衛と転生衆の死闘の数々ですが、それ以外にも、最初に定めた約定をどう破るか、紀州藩を滅ぼしかねない陰謀を十兵衛一行がどうやって食いとめるのか、あるいは少年・弥太郎の思わぬ活躍や柳生十人衆の文字通り命を懸けた行動等、あれこれと盛り込まれた要素がさらに話を盛り上げてくれます。
 転生衆との死闘に関しては、全盛期以上の能力を誇る魔人たちの相手をするには如何に十兵衛といえどかなり際どいというのが、なんともいえない緊迫感になっていますね。……実際、純粋に実力勝負というよりも、ギリギリのところで何某かの要素が絡んで勝ちを拾うパターンが多いものなぁ。
 最後の一戦は別枠として、転生衆との勝負で印象深かったのは、柳生谷の一戦かな。相手が人ならざるものとなり果てたと理解してもなお、彼の人に刀を向けなくてはならないという事実に苦悩し、そして勝敗決した後の十兵衛の姿が、なんとも、ねぇ……。あと、映画とかでは扱いの大きい(この人は名前出してもいいと勝手に判断)天草四郎が意外とあっさり、だったのはある意味吃驚だった。
 その他印象に残っているのは、松平伊豆守が頼宣公に目通りする場面。わずか数ページ、台詞もさほど多くないにもかかわらず、静かな迫力と存在感がはっきり伝わってくるのが凄い。あと、ロマンスというには控えめですが、十兵衛を転生衆に転ばせるという目的で近づきながら彼に心動かされたある女性の、最期に至るまでの行動には切ないものがありました。

 幾度もの死闘を潜り抜けた十兵衛を、最後に待っているのは最強の魔人。絶対的な強さを誇る相手との死を覚悟した戦いは、尋常でない緊迫感といい神がかった描写といい、ただただ、圧巻。そして、全てが終わり去りゆく彼の胸に去来する思いは如何なるものか――どこか哀愁漂うラストが物語に余韻を残します。

作品名 : 魔界転生(下) 山田風太郎忍法帖7
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著者名 : 山田風太郎
出版社 : 講談社文庫(講談社)
ISBN  : 978-4-06-264543-0
発行日 : 1999/4/15

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